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源氏物語(三十二)梅枝

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読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/pid/2567590

 

1

梅ヶ枝

 

2

御裳ぎのことおぼしいそぐ御心ををきて世のつねな

らず。東宮もおなじ二月に御かうふりの事あるべ

ければ。やがて御まいりもうちつゞくべきにや。正月(ムツキ)のつ

ごもりなれば。おほやけわたくしのどやかなるころを

ひに。たきものあはせ給ふ。大貳の奉れるかう(香)ども御らん

ずるに。なをいにしへのにはおとりてやあらんとおぼし

て。二条院の御くらあけさせ給ひて。からの物どもとり

わたさせ給ふて。御覧じくらぶるに。にしきあやな

どもなをふるき物こそなつかしうこまやかにはあり

けれとて。ちかき御しつらひのものゝおほひ。しき物。

しとねなどのはしともに。古(故)院の御世のはじめつかた

 

 

3

こま人(高麗人:こまうど)のたてまつれりけるあや。ひこんき(緋金錦)どもなどい

まの世の物ににず。猶さま/\゛御らんじあてつゝせさせ

給ひて。このたびのあやうす物などは人々にたまはず。

かう(香)共はむかしいまのとりならべさせ給ひて御かた/\

にくばり奉らせ給。ふたくさ(二種)つゝあはせさせ給へと聞

えさせ給へり。をくり物上達部のろくなど世になきさ

まにうちにもとにもいとなみ給にそへて。かた/\゛にえり

とゝのへて。かなうす(鉄臼)の音みゝかしかましき頃なり。おとゞ

はしん殿にはなれおはしまして。そむわ(承和)の御いまし

めのふたつのほうをいかでか御みゝにはつたへ給けん。心に

しめてあはせ給。うへはひんがしのなかの。はなちいでに

 

御しつらひことにふかうしなさせ給て。八条の式部卿

の御ほうをつたへて。かたみにいどみあはせ給ほどいみ

じう。ひし給へば。にほひのふかさ浅さも。かちまけの

さだめあるべしとおとゞの給ふ。人の御おやげなき御

あらそひ心なり。いづかたにもおまへにさふらふ人あ

またならず。御でうど(調度)ゝもゝそこらのきよらをつくし

給へるなかにも。かうこ(香壺)の御はこ(筥)どものやう。つぼのすがた。

ひとりの心ばへもめなれぬさまに今めかしう。やうか(変)

へさせ給へるに。所どの心をつくし給へらん。にほひど

ものすぐれたらんどもをかきあはせて。いれんとおぼ

すなりけり。きさらぎの十日雨すこしふりて。おまへ

 

 

4

ちかきこうばいさかりに。いろも香もにる物なき程に。

兵部卿の宮わたり給へり。御いそぎのけふあすになり

にけることとふらひ聞え給ふ。むかしよりとりわき

たる御中なれば。へだていなく其事かのことゝ聞えあ

はせ給て。花をめでつゝおはする程に。前斎院よりと

てちりすきたる梅のえだにつけたるふみもてまい

れり。みやきこしめす事もあれば。いかなる御せうそ

このすゝみまいれるにかとおかしとおぼしたれば。ほゝえ

みて。いとなれ/\しき事聞えつけたりしをまめ

やかにいそぎ物し給へるなめりとて御ふみはひきか

くし給つ。ちん(沈)のはこにるりのつき(杯)。ふたつすへて。おほ

 

きにまろかしつゝいれ給へり。心ば(葉)。こんるり(紺瑠璃)には五葉

のえだ。しろきには梅をえりておなじくひきむすび

たる。いとのさまもなよびかに。なまめかしうぞし給へる。

えんなる物のさまかなとて御めとゞめ給へるに

 (斎院)花の香がちりにしえだにとまらねどうつらん袖

にあさくしまめやほのかなるを御らんじつけて。宮は

こと/\しうずし(誦し)給。最小中将御つかひたつねとゞめさせ

給ひて。いたうえはし給。こうばいがさねのからのほそな

がそへたる。女のさうぞくかづけ給。御かへりもそのいろの

かみにて。おまへのはなをおらせてつけさせ給ふ。宮うち

のこと思ひやらるゝ御文かな。なにごとのかく(隠)ろへあるにか

 

 

5

ふかくかくし給とうらみていとゆかしとおぼしたり。何

事かは侍らん。くま/\しくおほしたるこそくるしけ

れとて。御すゞりのついてに

 (源)花のえ(枝)にいとゞ心をしむるかな人のとがめん香をば

つゝめど・。とやありつらん。まめやかにはすき/\゛しきやう

なれど。又もなかめる人のうへにて。これこそはことはりの

いとまみなめれと思ふ給へなしてなん。いとみにくけれ

ば。うとき人はかたはらいたさに中宮まかでさせたて

まつりてとおもひ給ふる。したしきほどになれ聞えか

よhげど。はつかしき所のふかうおはする宮なれば。なに事

も世のつねにて見せ奉らん。かたじけなくてなんな

 

ど聞え給。あえ物もげにかならずおぼしよるべきこと

なりけりとことはり申給。このついでに御かた/\゛のあ

はせ給ふどもをの/\御つかひしてこの夕暮のしめりに

心みんあときこえ給へれば。さま/\゛おかしうしなして

たてまつれ給へり。これわ(分)かせ給へたれ(誰)にかみせんとき

こえ給ひて。御ひとりどもめして心見せさせ給。しる

人にもあらずやとひげ(卑下)し給へど。いひしらぬ匂ひ共の

すゝみをくれたるがひとくさなどかいさゝかのどかをわき

給ふて。あながちにおとりまさりのけぢめををき給。

かのわがおほんふたくさ(御二種)のは今ぞとうてさせ給。右近の

ぢんのみかは水(御溝水)のほとりになずらへて物のわだどのゝし

 

 

6

たよりいづるみぎはちかううづませ給へるを。惟光の宰

相の子の兵衛のぞうほりてまいれり。宰相中将とり

てつたへまいらせ給。宮いとくるしきはんざにもあた

りて侍るかな。いとけふたしやとなやみ給。おなじうこ

そはいづくにもちりつゝひろごふべかめるを。人々の心々

にあはせ給へる。ふかさあさゝをかきあはせ給へるにいと

けうある事おほかり。さらにいづれともなきなかに。

さいいんの御くろぼう(黒方)。さいへども心にくゝしづかなる匂

ひことなり。じゝうはおとゞの御は。すぐれてなまめかし

うなつかしきか(香)なりとさだめ給。たいのうへのほん(御)は

みくさ(三種)ある中に。ばい花ははなやかに今めかしうす

 

こしはやき心しらひ(しつらひ)をそへて。めづらしきかほりくはゝ

れり。此ごろの風にたぐへんにはさらにこれにまさる

にほひあらじとめで給。夏の御かたには人々のかう

心々にいどみ給なるなかに。数々にも立いでずやと。

けふりをさへおもひきえ給へる御心にてたゞかえう(荷葉)を

一くさあはせ給へり。さまかはりしめやかなる香して

哀になつかし。冬の御かたにも時々によれるにほひの

さだまれるに。け(消)たれんもあいなしとおぼして。くは(薫)

えかう(衣香)のほうのすぐれたるは。さきの朱雀院のをう

つさせ給ひて。きんたゞのあそむ(公忠朝臣)のことにえらひつ

かうまつれりし。百ぶのほうなどおもひえて。世に似

 

 

7

ずなまめかしさをとりあつめたる心をきて。すぐ

れたりといづれをもむとくならずさだめ給ふを。心き

たなきはんだなめりときらひ給。月さしいでぬれば。

おほみきなどまいり給ひてむかし物語などし給。

かすめる月のかけ心にくきを。雨の名残のかぜすこし

ふきて。花の香なつかしきに。おとゞのあたりいひしら

す匂ひみちて。人の御心ちいとえんなり。蔵人所のか

たにも。あすの御あそびのうちなかしに。おことゞものさう

ぞくなどして殿上人などあまた参りておかしき笛

のねども聞ゆ。うちのおほとのゝ頭中将弁少将なども

げざむ(御見参)ばかりにてまかづるを。とゞめさせ給て御こと(琴)ゞ

 

もめす。宮の御まへにはびわ。おとゞにさうの御ことまいり

て。頭中将わごん給はりて。花やかにかきたてたるほど

いとおもしろく聞ゆ。宰相中将よこぶえふき給ふ。おり

にあひたるてうし(調子)雲井にとをるばかりふきたてた

り。辯少将拍子とりて梅ヶ枝いだしたるほどいとおかし。

わらは(童)にていんふたき(韻塞ぎ)のおりたかさこ(高砂)うたひし君な

り。宮もおとゞもさしいらへし給ひて。こと/\しからぬ

物からおかしき夜の御あそびなり。御かはらけまいるに

 (宮)鶯のこえにやいとゞあくがれんこゝろしめつる花

のあたりにちよもへぬべしと聞え給へば

 

 

8

 (源氏)いとも香もうつるばかりにこの春ははなさくやどを

かれずもあらなん頭中将にたまへばとりて宰相中将

にさす

 (柏木)鶯のねぐらのえだもなびくまでなをふきとを

せよはの笛竹宰相中将

 (夕霧)心ありて風のよぐ(避ける)める花の木にとりあへぬまで

ふきやよるべきなさけなくことみなうちわらひ給ふ。弁

の少将

 (弁)霞だに月と花とをへだてずはねくらの鳥もほころ

びなまし。まことにあけがたになりてそ宮かへり給ふ

御をくりものにみづからの御れう(料)の御なをし(直衣)の

 

御よそひ一ぐさり(領)。てふれ(手触れ)給はぬたき物ふたつぼ(二壺)そへ

て。御車に参らせ給。宮

 (宮)花のかをえならぬ袖にうつしもてことあやまり

といもやとがめんとあれば。いとくつ(屈)したりやとわらひ

給。御車かくる程にをひ(追い)て

 (源)めつらしとふる里人もまちぞみん花のましきを

きてかへる君又なき琴とおぼさるらんとあればいとい

たうからがり給。つき/\の君たちにもこと/\しから

ぬさまに。ほそなが。こうちきなどかづけさせ給。かく

て西のおとゞにいぬの時にわたり給。宮のおはします

西のはなち出(放出:はなちいで)をしつらひて。御くしあげの内侍など

 

 

9

もやがてこなたにまいれり。うへもこのついでに中宮

に御たいめんあり。御かた/\゛の女房をしあはせたる数

しらずみえたり。ねのときに御裳たてまつる。おほと

なぶら(大殿油)ほのかなれど。御けはひいとめでたしと宮は見

たてまつり給。おとゞおほしすつまじきをたのみにて

なめげなるすがたをすゝみ御覧せられ侍るなり。の

ちの世のためしにやと心せばく忍思ひ給ふるなど聞

え給。いかなるべきことゝも思ふ給へわき侍らざりつ

るを。かうこと/\しうとりなさせ給になんなか/\

こゝろをかれぬべくとの給け(消)つ程の御けはひいとわ

かくあいぎゃうづきたるに。おとゞもおぼすさまにおか

 

しき御けはひどものさしつどひ給けるを。あはひめ

でたくおぼさる。母君のかゝるおりだにえみ奉らぬを。い

みじと思へりしも心くるしうてまうのほらせやせまし

とおぼせど。人の物いひをつゝみてすぐし給つ。かゝると

ころのぎしきはよろしきにだにいとことおほくうる

さきを。かたはしばあkりれいのしどけんくまねばんも

中々にやとてこまかにかゝず。東(春)宮の御元服は廿よ日

のほどになん有ける。いとおとなしくおはしませば。

人のむすめをもきほひ(競い)まいらすべきことを心ざし

おぼすなれど。このとのゝおぼしきざすさまのいとこと

なれば。中々にやまじらはんと左のおおとゞなども

 

 

10

おぼしとゞまるなるを。きこしめして。いとたい/\

しきことなり。宮つかへのすぢはあまたある中に。す

こしのけぢめをいどまんこそほい(本意)ならめ。そこらのきやう

さく(警策)の姫君たちいひきめられなば。よにはへ(映え)あらじと

の給て。御参りのひぬつき/\にもとしつめ給けるを

かゝるよしところ/\゛に聞給て左大臣どのゝ三のきみ

参り給ぬ。れいけい(麗景)殿と聞ゆ。此御かたはむかしの御と

のいどころ。しげいさ(淑景舎)をあらためしつらひて。御まいりの

びぬるを。宮にも心もとながらせ給へば。四月にとさだめ

させ給ふ。御でうどゝも。もとあるよりもとゝのへて御

みづからも物のしたかた(下形)えやう(絵様)などをも御覧じいれ

 

つゝすくれたるみち/\の上ずどもめしあつめてこまか

にみがきとゝのへさせ給ふ。さうしのはこにいるべきさう

しどものやがて本にもし給ふべきをえらせ給。いにし

へのかみなききはの御手どもの世に名をのこし給へ

るたぐひのもの。いとおほくさふらふ。よろづの事むかしには

とりざまに成ゆく。世のすえなれど。かんなのみなん

いまの世はいときはなくなりたる。ふるきあとはさだ

まれるやうにはあれど。ひろき心ゆたかならず。ひとすぢ

にかよひてなん有ける。たへ(妙)におかしき事は。と(外)よりて

こそかきいづる人々ありけれど。女でを心にいれてな

らひしさかりに。こともなきてほん(手本)おほくつどへたり

 

 

11

し中に。中宮の母宮す所の心にもいれず。はしりかい

給へりしひとくだりばかりわざとならぬをえて。きは

ことにおぼえし。はや。さてあるまじき御なをもたて

聞えしぞかし。くやしき事に思ひしづみ給へりしか

ど。さしもあらざりけり。宮はかくうしろみつかうまつ

る事を心ふかうおはせしかば。なき御かげにもみなを

し給ふらん。宮の御てはこまかにおかしげなれど。かどや

をくれたらんと打さゝめきて聞え給ふ。故入道宮の

御手は。いとけしきふかうなまめきたるすぢはありし

かと。よはき所ありてにほひぞあうくなかりし。院の内

侍のかみこそ。今の上ずにおはすれど。あまりそほれて

 

くせぞそひためる。さはありともかの君と前斎院と。こゝ

にとこそはかき給はめとゆるし聞え給へば。このかず

にはまばゆくやと聞え給へば。いたうなすぐ(過)し給そ。

にこやかなるかたのなつかしさはことなる物を。まんな(真名)

のすゝみたるほどに。かんな(仮名)はしどけなきもじ(文字)こそまじ

るめれとて。まだかゝぬさうしどもつくりくはへ。へうし(表紙)

ひもなどいみじうさせ給ふ。兵部卿宮左衛門督などに

物せんみづからひとよろひ(一具)はかくべし。けしきばみいます

かりとも。えかきならへしやと。われぼめをし給。すみ筆

ならびなくえりいてゝれいのところ/\゛にたゞならぬ

御せうそこあれば。人々かたる事におぼしてかへ

 

 

12

さい申給もあれば。まめやかにっこえ給。こまのかみの

うすやうだちたるが。せめてなまめかしきをこのもの

ごのみするわかき人々心みんとて。宰相の中将式部

卿宮の兵衛のかみ内のおほいとのゝ頭中将などに。あ

してかたえを思ひ/\にかけとの給へば。みな心/\に

いどむべかめり。れいのしん殿にはなれおはしましてか

き給。花ざかりすぎてあさみどりなる空うらゝか

なるに。ふるき事どもなど思ひすまし給ひて。御心

のゆくかぎり。さう(草)のもたゞのも女でをいみじくかき

つくし給。御まへに人しげからず。女房二三人ばかり

すみなどすらせたまひて。ゆへあるふるきしうのうた

 

などいかにぞやなどえりいで給ふに。くちおしからぬ

かぎりさふらふ。みすあげわたしてけうそくのうへに

さうしうちをき。はしちかくうちみだれて。ふでのし

りくはへて思ひめぐらし給へるさまあくよ(飽く世)なくめで

たし。しろきあかきなどけちえんなるひら(掲焉なる枚)は筆と

りなをしよういし給へるさまさへ。みしらん人はげに

めでぬべき御有さまなり。兵部卿宮わたり給と聞ゆ

れば。おどろきて御なをし奉り御しとね(茵)まいりうへ

させ給て。やがてまちとり入奉り給。この宮もいときよ

げにて。みはしさまよくあゆみのぼり給ふほど。うちに

も人々のぞきて見奉る。うちかしこまりてかたみ

 

 

13

にうるはしだち給へるも。いときよらなり。つれ/\゛に

こもり侍るもくるしきまで思ひ給へらるゝ頃の。のど

けさに。おりよくわたらせ給へるとよろこび聞え給。

後御ざうしもたせてわたり給へるなりけり。やがて御

らんずればすぐれてしもあらぬ御手をたゞかたうどに

いといらう。ふですみたるけしきありてかきなし給

へり。うたもことさらめきそばみたるふr事どもをえ

りて。たゞ三くだりばあkりに。もじずくなにこのましく

ぞかき給へる。おとゞ御らんじおどろきぬ。かうまでは

思給へずこそ有つれ。さらにふでなげつべしやとねたが

り給。かゝる御中におもなくくたづふでの程さりとも

 

となん思ひ給ふるなどたはふれ給ふ。かき給へる御

さうしどもゝ。かくし給べきならねばとうで給てかたみ

に御らんず。からのかみのいとすくみたるに。さうしかき

給へるすぐれてめでたしとみ給に。こまのかみのはだ

こまかに。なご(和)うなつかしきが色などはなやかならで。な

まめきたるに。おほとかなる女手のうるはしう心とゞ

めてかき給へる。たとふべきかたなし。見給ふ人の涙さへ

水ぐきにながれそふ心ちsていあくよ有まじきに。又

こゝのかむやのしきしのいろあひ。花やかなるに

みだれたるさうの歌を筆にまかせてみだれかき

給へる。見どころかぎりなし。しろろもどろにあい

 

 

14

ぎやうづきみまほしければ。さらにのこりともにめも

見やり給はず。左衛門督はこと/\しうかしこけ

なるるぢのみこのみてかきたれとふでのをきてすま

ぬ心ちしていたはりくはへたるけしきなり。うたなど

もことさらめきてえりかきたり。女のをばまほにも

とり出給はず。斎院のなどはましてとうで給はざり

けり。あしてのさうしともそ心々にはかなうおか

しき宰相中将のは水のいきほひゆたかにかきなし

そゝけたる芦のおひさまなどなにはのうらにかよひ

てこなたかなたいきまじりていたうすみたる所あ

り。又いといまめかしうひきかへてもじやういしなど

 

のたゝずまひ。このみがき給へるひらもあめり。めもを

よばずこれはいとま入ぬべきものかなとけうじめで給。

なに事とものこのみしえんがりおはするみこにて

いといみじうめで聞え給ふ。けふは又ての事どもの給

ひくらしてさま/\゛の。つぎかみ(継紙)のほん(本)どもえりいださ

せ給へるついでに。御子の侍従して宮にさふらふ本ど

もとりにつかはす。さがのみかどの萬よう集をえらひ

かゝせ給へる四巻。延喜のみかどの古今和歌集をからの

あさはなだ(浅縹)のかみをつぎて。おなじいろのこきもん(濃き紋)の。きの

へうし。おなじき玉のぢく。たん(緞)のからくみのひもなど

なまめかしうて。まきごとに御手のすぢをかへつゝ。いみ

 

 

15

じうかきつくさせ給へる。おほとなぶら(大殿油)みじかくまいり

て御らんずるに。つきせぬものかなこの頃の人はたゞかた

そばをけしきばむにこそ有けれなどめで給。やがてこ

れはとゞめたてまつり給。女ごなどをもて侍らまじに

だに。おさ/\見ばやすまじきにはつたふまじきをま

してくちぬべきをなど聞えたてまつれ給ふ。侍従に

からの本などのいとわざとがましきぢん(沈)のはこにい

れて。いみじきこまぶえ(高麗笛)そへて奉れ給。又このごろはたゞ

かんな(仮名)のさだめをし給て。世中に手か(書)くとおぼえたる

上中下の人々にもさるべきものどもおぼしはから

ひてたづねてかゝせ給。この御はこにはたちくだれるをば

 

まぜ給はず。わざと人のほどしな(品)わかせ給つゝさうし

まき物みなかゝせたてまつり。よろづにめづらかなる

御たから物ども。人のみかどまてありがたげなる中に。

このほんどもんゆかしと心うごき給。わか人世にp

ほかりける。御絵どもとゝのへしらせんとおぼせど。い

ますこし世をもおぼししりなんにとおぼし返し

てまだとりいで給はず。内のおとゞは此御いそぎを

人のうへにて聞給も。いみじう心もとなく。さう/\゛し

とおぼす。ひめぎみの御ありさまさかりにとゝのひて

あたらしううつくしげなり。つれ/\゛とうちしめり

 

 

16

給へるほどいみじき御なげき草なるに。かの人の御

けしき。はたおなじやうになだらかなれば。心よはく

すゝみよらむも人わらはれに。人のねんごろなりし

きざみになびきなましかばなど人しれずおぼしな

げきて。一かたにつみをもえおぼせ給はず。かくすこし

たはみ給へる御けしきを宰相のきみはきゝ給へど。し

ばしつらかりし御心をうしと思へば。つれなくもてな

ししづめて。さすがにほかざまの心あhつかうべくもおぼ

えず。心づからたはふれにくきおりおほかれとあさみ

とり聞えこちし御めのとゝもに納言にのぼりて

見えんの御心ふかゝるべし。おとゞはあやしううきた

 

るさまかなとおぼしなやみて。かのわたりの事思ひ

たえにたらば。右のおとゞ中務の宮などのけし

きばみいはせ給めるを。いづくも思ひさためられよと

の給へど。もの聞え給はずかしこまりたるさまに

てさふらひ給ふ。かやうの事はかしこき御をしへにだ

にしたがふべくもおぼえざりしかば。事まぜまうけ

れども。今思ひあはすえうに。かの御をしへこそながきた

めしにはありえれ。つれ/\゛と物すれば思ふ所ある

にやと世の人もをしはかるらんを。すくせのひく(引く)かた

にてなを/\しきことにあり/\りなびくいと。しり(尻)

びに人わろきことぞや。いみじう思ひのぼれども心

 

 

17

にしもかなはず。かぎりある物から。すき/\しき心

つかはるな。いはげなくより宮のうちよりおひ出て。

身を心にもまかせず。ところせく(狭く)。いさゝかのことのあ

やまりもあらばかる/\゛しきそしりをやおはむと

つゝみしだに。猶すき/\゛しきとがをおひて。世にはし

たなめられき。くらいあさくなにとなき身のほど。う

ちとけ心のまゝなるふるまひなどものせらるな。心

をのづからおごりぬれば。思ひしづむべきくさばひな

き時。女のことにてなん。かしこき人。むかしもみだるゝ

ためし有ける。さるまじきことに心をつけて人の名

をもたて。みづからもうらみをおふなん。ついのほだし

 

となりける。とりあやまりつゝみん人のわがこゝろ

かなはず。しのばんことかたきふしありともなを思

ひかへさん心をならひて。もしはおやの心にゆづり。もし

はおやなくて世の中かたほにありとも人がら心ぐる

しうなどあらん人をばそれをかたかどによせても見

給へ。わがため人のためついによるべき心ぞふかうあるべ

きなどのろやかに。つれ/\なるおりはかゝる心づかひを

のみをしへ給。かやうなる御いさめにつきて。たはふれに

てもほかざまの心を思ひかゝるは哀に人やりならずお

ぼえ給。女もつねよりことにおとゞのおもひなげき給

へる御けしきにはづかしう。うき身とおぼししづ

 

 

18

めと。うへはつれなくおほとかにてながめすぐし給。御

文は。思ひあまり給おり/\哀に心ふかきさまにき

こえ給。たがまことをかと思ひながらよなれたる人

kそ。あながちに人の心をもうたがふなれ。哀と見給ふし

おほかり。中務の宮なんおほとのにも御けしき給は

りてさもやとおぼしかはしたなると人の聞えけれ

ば。おとゞはひきかへし御むねふたがるべし。忍びて

さる事をこそきゝしが。なさけなき人の御心にもあ

りけるかな。おとゞのくちいれ給ひしに。しうね(執念)かり

きとて。ひきたがへ給ふなるべし。心よはくなびきても

人わらへならまし事など涙をうけての給へば。姫君(雲居の雁)

 

いとはづかしきにもそこはかとなく涙のこぼるれば。はし

たなくてそむき給へるらうたげさかぎりなし。いかに

せましなをやすゝみ出てけしきをとらましなど

おぼしみだれて。たち給ぬる。名残もやがてはしちかう

ながめ給。あやしく心をくれてもすゝみいでつる涙かな

いかにおぼしつらんなどよろづに思ひい給へる程

に。御文ありさすがにぞ見給。こまやかにて

 (夕霧)つれなきはうきよのつねになりゆくを忘ぬ人

や人にこおtなるとありけしきばかりもかすめぬつ

れなさよと思ひつゞけ給ふはう(憂)けれど

 (雲居)かぎりとて忘れがたきをわするゝもこや世にな

 

 

19

びく心なるらんとあるをあやしと打をかれずかた

ふきつゝ見い給へるとぞ

 

 

 

 

 

 


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