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源氏物語(三十一)真木柱

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読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/pid/2567589

 

1

真木柱

 

2

うちにきこしめさん事もかしこし。しばし人に

あまねくもらさじといさめ聞え給へど。さしもえ

つゝみあへ給はず。ほどふれどいさゝかうちとけたる

御けしきもなく。おもはずにうきすくせなりけり

と思ひいり給へるさまのたゆみなきを。いみじう

つらしと思へど。おぼろけならrぬちぎりのほどあは

れにうれしく思。みるまゝにめてたく思ふさまな

る御かたちありさまをよその物に見はてゝやみ

なましよと思ふだにもむねつぶれて。いし山の仏

をも弁のをもとをもならべていたゞかまほしう

思へど。女君のふかく物しとおぼしうとみにければ

 

 

3えまじらはてこもりいにけり。げにそこら心ぐ

るしげなる事どもをとり/\にみしかど。心あさ

き人のためにぞ。寺のげん(験)もあらはれけん。おとゞも

御心ゆかず口おしうおぼせど。いふかひなき事にて

誰も/\かくゆるしそめ給へることなれば。ひきかへ

しゆるさぬけしきをみせんも人のためいとおし

うあいなしとおぼして。ぎしきいとに(二)なくもてか

しづき給。いつしかと我殿にわた(渡)い奉らん事を思

ひいそぎ給へど。かる/\゛しくふとうちとけわたり給

はんに。かしこにまちとりてよくしも思ふまじ

き人の物し給なるがいとおしきに。ことつけ給てな

 

を心のどかになだらかなるさまにて。をとなくい

づかたにも人のそしりうらみなかるべくを。もてな

し給へとぞ聞え給。ちゝおとゞはなか/\めやすか

めり。ことにこまかなるうしろみなき人の。なまほ

のすいたる宮づかへにいでたちて。くるしげにやあら

むとぞうしろめたかりし心ざしはありながら。女御

かくてものし給ををきて。いかゞもてなさましな

どしのびての給けり。げにみかどゝ聞ゆとも人にp

ぼしおとし。はかなきほどにみえたてまつり給ふ

てもの/\しくももてなし給はずは。あはつけき

やうにもあべかりけり。三日のよるの御せうそこど

 

 

4

も聞えかはし給けるけしきを。つたへきゝ給て

なん。このおとゞのきみの御心をあはれにかたじけ

なさありがたしとは思ひ聞え給ける。かう忍び

給御なからひの事なれどをのづから人のおかしき

ことにかたりつたへつゝ。つぎ/\にきゝもらして。有

がたき世がたりにぞさゝめきける。内にもきこしめ

してげり。口おしうすくせことなりける人なれ

ど。さおぼしゝほいもあるを。宮つかへはなどかけ/\し

きすぢならばこそは思ひたえ給はめなどの給はせ

けり。霜月になりぬ。神わざなどしげくないし

どころにもことおほかるころにて。女くはんども内侍

 

なども集りつゝ。いまめかしう人さはがしきに。大

将殿ひるもいとかくろへたるさまにもてなし。こもり

おはするを。いと心づきなくかむのきみはおぼした

り。みやなどはまいていみじうくちおしとおぼす。兵

衛のかみ(督)はいもうとのきたのかたの御ことをさへ人

わらへに思なげきて。とりかさねものおもほしけれ

ど。おこがましう恨よりても今はかひなしとおもひ

かへす。大将はな(名)にたてるまめ人のとし頃いさゝか

みだれたるふるまひなくてすぐし給へるなご

りなく心ゆきてあらざりしさまにこのましう

よひ。あかつきのうちしのび給へるいでいりも。えん(艶)

 

 

5

にしなし給へるをおかしと人々みたてまつる。女

はわらゝかににぎはしくもてなし給。本上(本性)も

もてかくして。いといたう思むすぼゝれんもてあら

ぬさまはしるき事なれど。おとゞおぼすらんこと宮の

御心ざまの心ふかうなさけ/\しうおはせしなど

を思ひいで給に。はづかしう口おしうのみおもほすに。

物心づきなき御けしきたらずとのもいとおしう

人々も思ひうたがひけるすぢを。心きよくあら

し給て。わが心ながらうちつけにねぢけたること

はこのますかしとむかしよりのこともおぼしい

て。むらさきのうへにもおぼしうたがひたりしよ

 

など聞え給。今さらに人の心くせもこそとおぼし

ながら。物のくるしうおぼされし時。さてもやとお

ぼしより給し事なれば猶おぼしもたえず。大

将のおはせぬ日かつかたわたり給へり。女君(玉)あやし

うなやましげにのみもてない給て。すくよかなる

おりもなくしほれ給へるを。かくわたり給へれば。す

こしおきあがり給て。御几帳にはたかくれておは

す。殿もよういことにすこしけゝしき(かどかどしい)さまにも

てない給て。おほかたのことゞもなど聞え給。すくよ

かなるよのつねの人にならひては。ましていふかた

なき御けはひ有さまをみしり給にも。思ひのほ

 

 

6

かなる身のをき所はづかしきにも涙ぞこぼれける

やう/\こまやかなる御物語になりて。ちかき御けう

そくによりかゝりて。すこしのぞきつゝ聞え給

いとおかしげにおもやせ給へるさまのみまほしう

らうたいことのそひ給へるにつけても。よそに見は

なつもあまりなる心のすさひぞかしとくちをし

 (源)をりたちてくみはみねどもわたり川人のせ(瀬)と

はたちぎら(契)さりしを 思のほかなりやとてはなう

ちかみ給けはひなつかしうあはれなり。女はかほ

かくして

 (玉)みつせ川わたらぬさきにいかでなをなみだの

 

みをのあはときえなん心おさなの御きえどころや。

さてもかのせうぁ。よきみちなんなるを御てのさき

ばかりは。ひきたすけ聞えてんやとほゝえみ給て。

まめやかにはおぼししることもあらんかし。世になき

しれ/\しさも又うしろやすきも。此世にたぐひ

なき程を。さりともとなん憑(たの)もしきと聞え給

を。いとわりなうきゝぐるしとおぼいたれば。いと

おしうての給まぎらはしつゝ。内にの給はする事

なんいとおしきを。猶あからさまに参らせ奉らん。

をのがものとりやうじはてゝはさやうの御まじ

らひもかたげなめる世なめり。思ひそめ聞えし心は

 

 

7

たがふさまなめれど。二条のおとゞは心ゆき給なれば

心やすくなんあどこまかに聞え給。あはれにも

はづかしくもきゝ給ことおほかれどたゞ涙にまつ

はれておはす。いとかうおぼしたるさまの心ぐるし

ければおぼすさまにもみだれ給はず。たゞあるべきや

う御心づかひををしへ聞え給ふ。かしこにわたり給

はん事を。とみにもゆるしきこえ給まじき御

けしきなり。内へ参り侍らんことを。やすからぬこと

に大将おぼせど。そのついでにやがてまかでさせた

てまつらんの御心つき給て。たゞあからさまのほど

をゆるし聞え給。かくしのびかくろみ給ふ御ふる

 

まひもならひ給はぬ心ちにくるしければ。わがと

のゝうちすり(修理)ししつらひて。とし頃はあらしうづ

もれうちすて給へりつる御しつらひ。よろづのぎし

きをあらためいそぎ給。きたのかたのおぼしなげ

くらん御心もしり給はず。かなしうし給し君

達をも。めにもとめ給はず。なよびかになさけ/\し

き心んぼつちまじりたる人こそ。とさまかうさ

まにつけても人のためはぢがましからん事をば

をしはかり思ふ所もありけれ。ひたおもむきに

すくみ給へる御本上にて人の御心うこきぬべき

事おぼかり。女君人におとり給べき事なし。人の

 

 

8御程もさるやんごとなきちゝみこのいみじうかしづ

きたてまつり給へるおぼえ世にかろからず御かたち

などもいとようおはしけうろw.あやしうしうねき

御ものゝけにわづらひ給てこのとし事世の人にも似給は

ずうつし心なきおり/\おほく物し給て御なかもあ

くがれてほとへにけれど。やんごとなきものとは。又なら

ぶ人なく思ひ聞え給へるを。めづらしう御心うつるかた

のなのめにあらず人にすぐれ給へる御有さまよりも

彼かたのうたがひをきて。みな人のをしはかりしこと

さへ心きよくてすくひ給けるなどを。ありがたうあ

はれと思ひまじ。きこえ給もことはりになん。式部

 

卿のみやきこしめして。今はしか今めかしき人を

わたしてもてかしづかんかたすみに人わろくてそひ物し

給はんも人ぎゝやさしかるへし。をのがあらんこなたは

いと人わらへなるさまに。したがひなびかでも。ものし

給ひなんとの給て。みやのひんがしのたいをはらひ

しつらひてわたし奉らんとおぼしの給を。おやの御

あたりといひながらいまはかぎりの身にてたち

かへりみえ奉らんことゝ思ひみだれ給にいとゞ御心

ちもあやまりて。うちはへふしわづらひ給。本上いと

しづかに心よくこめき給へる人のとき/\゛心あや

まりして人にうとまれぬべき事なんうちまじ

 

 

9

り給けるすまいなどのあやしう。しどけなくも

のゝきよらもなくやつしていとむもれいたくもて

なし給へるを。玉をみがけるむつしに。心もとま

らねど。としごろの心ざしひきかふるものならね

ば心はいとあはれと思聞え給。きのふけふのい

とあさはかなる人の御なからひによろしききはに

なれば。みな思ひのとむるかたありてこそ見はつなれ

いと身もくるしげにもてなし給へれば。聞ゆべきこ

ともうちいで聞えにくゝなん。とし頃ちぎり聞ゆ

ることにはあらずや。よの人にも似ぬありさまを

見奉りはてんとこそは。こゝら思ひしつめつゝすぐ

 

しくるに。えさしもありはつまじき御心をきて

におぼしうとむな。おさなき人々も侍れば。とさま

かうさまにつけてをろかにあらじと聞えわたるを

女の御心のみだりがはしきまゝにかくうらみわたり給

一わたりみはて給はぬ程さもありぬべきことなれ

ど。まかせてこそ今しばし御覧じはてめ。宮のき

こしめしうと(疎)みて。さはやかにふとわたし奉りてん

とおぼしの給なん。かへりていとかる/\しきまこと

におぼしをきつる事にやあらん。しばしかうじし

給ふべきにやらんとうちわらひて出給へる。いと

ねたげに心やまし。御めしうど(召人)たちて。つかうま

 

 

10

つりなれたる。もくの君。中将のをもと。などいふ人々

だに程につけつゝやすからずつらしと思ひ聞えた

るを。北方はうつし心物し給ふ程にていとなつかしう

打なきてい給へり。みづからをほれたりひが/\との

給ひ。はぢしむるはことはりなることにあん。宮の

御ことをさへとりまぜの給ぞ。もり聞給はんはい

とおしううき身のゆかりかる/\゛しきやうなる

みゝなれにてはべれば。いまはじめていかにも物を

思ひ侍らずとて。ついそむき給へるらうたげな

り。いとさゝやかなる人のつねの御なやみにやせお

とろへ。ひはつにて。かみいときよらにてながゝりけ

 

るが。わけとりたるやうにおちほそりて。けづる

こともおさ/\し給はず。なみだにまつはれたるは

いとあはれなり。こまかににほへる所はなくて。ちゝ

みやににたてまつりてなまめい給へるかたちし給

へるをもてやつし給へれば。いづこの花やかなる

けはひかはあらん。みやの御ことをかろくはいかゞ聞ゆる

おそろしう人ぎゝかたはにな。の給なしそとこし

らへて。かのかよひ侍る所のいとまばゆき玉のうて

なに。かい/\しうすくなるさまのいでいるほど

もかた/\゛に人めたつらんとかたはらいたければ。心や

すくうつろはしてんと思ひ侍るない。おほきおとゞ(太政大臣

 

 

11

のさる世にたぐひなき御おぼえをばさらにもき

こえず。心はづかしういたりふかうおはすめる御あ

たりに。にくげなる事もりきこえば。いとなんい

とおしうかたじけなかるべき。なだらかにて御なか

よくてかたらひて物し給へ。みやにわたり給へり

ともわするゝことは侍らじ。とてもかうても今さらに

心ざしのへだゝる事はあるまじけれど。よの聞え

人わらへにまろがためにもか/\゛しうなん侍るべ

きをとし事の契りたがへずかたみにうしろみんと

おぼせとこしらへ聞え給へば。人の御つらさはと

もかくもしり聞えず。よの人も似ぬ身のうき

 

をなん宮にもおぼしなげきて。今さらに人わら

へなる事と御心をみだり給なればいとおしう

いかでかみえ奉らんとなん。大殿の北のかたと聞ゆる

もこと人にやは物し給。かれはしらぬさまにてお

ひいで給へる人の。すえの世にかく人のおやたちて

もてない給つらさをなん。おもほしの給なれど。こゝ

にはともかくも思はずや。もてない給はんさまを

みるばかりとの給へば。いとようの給を。れいの御心

たがひにやくるしき事もいでこん。おほとのゝ北の方

のしり給ことにもはべらず。いつきむすめ(女)のやうに

て物し給へば。かく思ひおとされたる人のうへまで

 

 

12

はしり給ひなんや。人の御おやげなくこそものし給

べかめれ。かゝることのきこえあらばいとくるしかるべ

きことなど。日ひとひ(一日)いりいてかたらひ申給。くれ

ぬれば。心のそらにうきたちていかでいでなんとお

ぼすに。雪かきたれてふる。かゝる空にふりいでんも

めいとおかしう。この御けしきもにくげにふすべ

うらみなどし給はゞ。中々事つけてわれもむか

ひ火つくりてあるべきを。いとおいらかにつれなう

もてなし給へる様のいと心ぐるしければ。いかに

せんと思ひみだれつゝ。かうしなどもさながらはし

ちかううちながめい給へり。きたのかたけしきを

 

みて。あやにくなめる雪をいかでわけ給はんとす

らん。夜もふけぬめりやとそゝのがし給。今はかぎり

と。とゞむともと思ひめぐらし給へるけしきいと

哀なり。かゝるにはいかでかとの給物から。なをこの頃

ばかり心のほどをしらで。とかく人のいひなしお

とゞたちもひだりみぎに聞おぼさんことをはゞ

かりてなん。とだえあらんはいとをしき思ひしづめ

て猶見はて給へ。こゝになどわたしては心やすく

侍りなん。かく世のつねなる御けしきみえ給時は

ほかざまにわくる心もうせてなんあはれに思ひ

聞ゆるなどかたらひ給へば。たちとまり給ても御

 

 

13

心のほかならんはなか/\くるしうこそあるべけれ。

よそにても思だにをこせ給はゞ。袖の氷もとけなん

かしなどなごやかにいひい給へり・御ひとりめして

いよ/\たきしめさせ奉り給。みづからはなへたる御ぞ

どもにうちとけたる御すがたいとゞほそうかよは

げなり。しめりておはするいと心ぐるし。御めのいた

うなぎはれたるぞすこしものしけれど。いとあは

れにみるときはつみなうおぼして。いかですぐしつ

るとし月ぞと名残なううつろふ心のいとかろきぞ

やとは思ふ/\。なを心げさうはすゝみて。そらなげき

をうちしつゝ。猶さうぞくし給てちいさきひ(火)とり

 

とりよせて。袖にひきいれてしめい給へり。なつかし

き程になえたる御さうぞくに。かたちもかのならび

なき御ひかりにこそ。お(圧)さるれどいとあざやかにおゝ

しきさましてたゝ人とみえず。心はづかしげ也。

さふらひに人々こえして雪すこしひまあり。夜

はふけぬらんかしなどさすがにまほにはあらで

そゝのがし聞えてこはつくりあへり。中将もく(木工)など

哀のよやなどうちなげきつゝかたらひてふしたる

に。さうじ身(正身)はいみじう思ひしづめてるたげに

よりふし給へりとみる程に。にはかにおきあがりて

おほきなるこ(籠)のしたなりつるひとり(火取り)をとりよせて

 

 

14

ものゝうしろによりてさといかけ給ほど。人のやゝ見

あふる程もなう浅ましきに。あきれて物し給ふ。

さるこまかなるはい(灰)のめはなにもいりておぼゝれて

ものもおぼえすはらひすて給へど。たち(立ち)みちたれば

御ぞどもぬぎ給つ。うつし心にてかくし給ぞと思はゞ

又かへり見すべくもあらずあさましけれど。れいの御

ものゝけの人にうとませんとするわざと御まへなる

人々もいとをしうみたてまつる。たちさはぎて御ぞ

ども奉りかへなどすれど。そこらのはいの御びんのわた

りにもたちのぼり。よろづのところにみちたる心

ちすれば。きよらをつくし給わたりにさながらまう

 

で給へきにもあらず。心たがひ(違ひ)ながらなをめ

づらしう見忍びがたき人の御ありさまなりやと

つまはじきせられうとましうなりてあはれと思ひ

つる心ものこらねど此頃あらだてゝはいみじきこと

いできなんとおぼししづめて。夜中になりぬれど

そう(僧)などめしてかぢ(加持)参りさはぐ。よ(呼)はひのゝしり

給こえなど思ひうとみ給はんにことはりなり。夜ひ

とよいみじううたれひがれなきまどひあかし給

てすこし打やすみ給へる程に。かしこへ御ふみたて

まつれ給。よべ(昨夜)にはかにきえいる人の侍しにより。

雪のけしきもづりいでがたくやすらひ侍しに。身

 

 

15

さへひえてなん御心をばさる物にて。いかにとりなし

侍けんときすく(生直)にかき給へり

 (髭黒)心さへそらにみだれし雪もよにひとりさえつる

かたしきの袖たへがたくこそとしろきうすやうに

づしやかにかい給へれど。ことにおかしき所もなして

はいときよげなり。ざえ(才)かしこくなどぞ物し給

ける。かん(内侍)の君(玉鬘)よ(夜)がれをなにともおぼされぬに。かく心

ときめきし給へるをみもいれ給はねば。御返なし

おとこ(大将)むねつぶれて思ひくらし給。北方はなをいと

くるしげにし給へばみず法(御修法)などはじめさせ給。

心のうちにもこの頃ばかりだに事なくうつし心に

 

あらせ給へとねんし給まことの心ばへのあはれな

るをみしらずはかうまで思ひすぐすべうもなき

けうとさかなと思ひい給へり。くるればれいのいそぎ

いで給御さうぞくの事などもめやすくなし給はず

よにあやしううちあはぬさまにのみむつかり給を

あざやかなる御なをしなどもえとりあへ給はで。い

と見ぐるし。よべ(昨夜)のは。やけ(焼け)とをりていとましげに

こはれたるにほひなどもことやうなり御ぞどもにう

つりがもしみだりふすべられけるほどあらはに。人

もうし給ぬべければぬぎかへて御ゆどのなどいたう

つくろひ給。もくのきみ御たきものしつゝ聞ゆ

 

 

16

 (木工の君)ひとりいてこがるゝむねのくるしきに思ひあま

れるほのをとぞみしなごりなき御もてなしは見

たてまつる人だにたゞにやはとくちおほひてい

たるまみいといたし。されどいかなる心にてかやうの

人に物をいひけんなどのみぞおぼえ給ける。なさけ

なきことよ

 (大将)うきことを思ひさはけばさま/\にくゆるけふ

りぞいとゞたちそふいとことのほかなる事どもの

もし聴こえあらば。ちうけん(中間)になりぬべき身なめり

とうちなげきていで給ぬ。一夜ばかりのへだてだに

又めづらしうおかしさまさりておぼえ給有さまに。

 

いとゞ心をわくべくもあらすおぼえて心うければ

久しうこもりい給へり。ず法(修法)などしさはけど御物

のけこちたくおこりてのゝしるを聞給へば。あるま

じききずもつきはぢがましき事かならずあ

りなんとおそろしうてよりつき給はず。とのにわ

たり給ときも。ことかたにはなれい給て君だちば

かりをぞよびはなちて見奉り給。女一ところ十二三ば

かりにて。またつき/\゛おとこふたりなんおはしける

近きとしごろとなりては御なかもへだゝりがちにて

ならはし給へれど。やん事なうたちならぶかたなくて

ならひ給へれば。いまはかぎりと見給ふにさふらふ人々

 

 

17

もいみじうかなしと思ふ。ちゝみや(式部)きゝ給て今はしか

かけはなれてもていで給らん。さて心づよくものし給。

いとおもなう人わらへなる事なり。をのがあらんよのか

ぎりはひたふるにもなどかしたがひくづおれ給はん

ときこえ給ひて。にはかに御むかへあり。きたの方御

こゝとすこしれいになりて世中をあさましうお

もひなげき給ふに。かくと聞え給へれば。しいてたち

とまりて人のたえはてんさまを見はてゝ思ひと

ちめんも今すこし人わらへにこそあらめなとおほし

たつ。御せうと(兄弟)の君だち兵衛督はかんだちめにおは

すればこと/\しとて中将侍従民部大輔(みんぶのたいふ)など

 

御車三ばかりしておはしたり。さこそにあべかめれとか

ねて思ひつる事なれど。さしあたりてけふをかぎ

りと思へばさふらふ人々もほろ/\となきあへり。

年ごろならひ給はぬたびずみにせばくはした

なくてはいかでかあまたはさふらはん。かたへはをの/\

さとにまかでゝしづまらせ給なんになどさゝめく

人々をのがじゝ(為し:それぞれ思い思いに)はかなきものどもなどさとにはこ

びやりつゝみだれちるべし。御でうど(調度)ゝもはさるべきは

みなしたためをきなどするまゝに。かみしもなきさは

ぎたるはいとゆゝしく見ゆ。君達はなに心もなくてあ

りきたまふを。はゝ君みなすび(:統び?呼び)すへ給てみづからは

 

 

18

かく心うきすくせ。いまは見はてつればこの世にあと(跡)ゝむ

べきにもあらずともかくもさすらへなん。おひさき

を(遠)うでさすがにち(散)りぼいたまはん有さまとものかな

しうあべいかな姫君はとなるともかうなるともをの

れにそひ給へ。なか/\おとこ君だちはえさらずまう

てかよひみえ奉らむに。人の心とゝめ給べくもあらず

はしたなうてこそたゝよはめ。宮のおはせんほどかた

のやうにまじらひをすとも。かのおとゞたちの御こゝろ

にかゝれる世にてかく心をくべきわたりぞとさすがに

しられてひとにもなりたらんことかたし。さりとて

 

山はやしにひきいりつゝまじらん事。渡世までい

 

みじき事となき給ふに。みなふかき心は思わかねど。う

ちひそみてなきおはさうず。むかし物語などを見

るにも。よのつねの心ざしふかきおやだに。ときにう

つろひ。人にしたかへをろかにのみこそなりけれ。まし

てかたやうにて。みるめのまへにだに。名残なき御心は

かゝり所ありてももてない給はじと。御めのとゞもさしつ

どひての給なげく。ひもくれ雪ふりぬべきそらのけし

きも心ぼそう見ゆるゆふべなり。いたうあれ侍なん。は

やうと御むかけの君だちそゝのかし聞えて。御めをし

のごひつゝながめおはす。姫君は殿いとかなしうしたてま

つり給ならひに。みたてまつらではいかでかあらん。今な

 

 

19

ども聞えて又あひ見ぬやうもこそあれとおぼすに

うつぶし/\てえわたるまじとおもほしたるを。かく

おぼしたるなんいと心うきなどこしらへ聞えた編。たゞ

いまもわたり給はなんとまち聞え給へどかく暮なん

に。まさいうごき給ひなんや。つねによりい給ひんが

しおもてのはしらを人にゆづる心ちし給もあはれ

にて。姫君ひわだいろのかみかさね。たゞいさゝかにかきて

はしらのひはれ(干割れ)たるはざまに。かうがいのさきして

をしいれ給

 (姫君)今はとてやと(宿)かれぬともなれきつるまきのはし

らはわれをわするなえもかきやらでなき給。母君。い

 

でや。とて

 (北の方)なれきとは思ひいづともなにゝよりたちとまる

べきまきのはしらぞ御まへなる人々もさま/\゛に

かなしくさしもおもはぬ木草のもとさへ恋しからん

事と。めとゞめてはなすゝりあへり。もくの君はとのゝ

御かたの人にて。とゞまるに中将のをもと

 (中将君)あさけれどいしま(石間)の水はすみはてゝやど(宿)もる君

やかけはなるべき思ひかけざりし事なり。かくてわ

かれ奉らんことよといへば。もく

 (木工君)ともかくもいはまの水のむすぼゝれかけとむべくも

おもほえぬ世をいでやとてうちなく御車ひき出て

 

 

20

打かへり見るも又はいかでかはみんと。はかなき(心ちす)。木末(梢)

をもめとゞめてかくるゝまでぞかへり見給ける。きみ

がすむゆへにはあらで。こゝらとしへ給へる御すみかのいか

でかしのび所なくはあらん。みやにはまちとりいみじう

おぼしたり。母北のかたなき(泣き)さはぎ給ておほきお

とゞをめでたきよすがと思きこえ魂合へれど。いかばかり

のむかしのあたかたきにかおはしけんとこそおもほ

ゆれど。女御をもことにふれはしたなくもてなし給

しかど。それは御中のうらみとけざりしほど。思ひ

しれとにこそはありけめとおぼしの給ひ。世の人もいひ

なしゝだに。猶さやとあるべき。ひとひとりを思ひかし

 

つき給はんゆへは。ほとりまてもにほふためしこそあれ

と心得ざりしを。ましてかく末にすゞろなるまゝこ

かしづきをして。をのれふるし給へるいとをしみに。じ

ほうなる人のゆきどころあるまじきをとてとりよ

せ。もてかしづき給はいかゞつらからぬといひつゞけのゝし

り給へば。宮はあな聞にくや。よになんつけられ給は

ぬおとゞを。くちにまかせてなおとしめ給そ。かしこき

人は思ひをき。かゝるむくひもがなと思ふ事こそはもの

せられけめ。さもおもはるゝ我みのふかうなるにこそは

あらめ。つれなうて。みなかのしづみ給しよのむくひは

うかへしづめ。いとかしこくこそは思ひわらい給ふめれ。を

 

 

21

のれひとりをばさるべきゆかりと思ひてこそは。ひとゝせ

もさる世のひゞきに。家よりあまることゞもゝあり

しが。それをこの生のめいぼく(面目)にてやみぬべきなめり

との給に。いよ/\はらだちてまが/\しきとなどを

いひちらし給。このおほ北のかたそさがな物なりける。

大将の君かくわたり給にけるをきゝて。いとあやしう

わか/\しきならひのやうに。ふすべがほにて物し

給けるかな。さうじみはしかひきゝりにきは/\しき

心もなきものを。みやのかくかる/\゛しうおはすると

思ひて。君だちもあり。人めもいとをしきに思ひみだ

れてかむの君にかくあやしきことなん侍なる。なか/\

 

心やすくは思ひ給なせとさてかたすみにかくろへても

ありぬべき人の心やすさを。おだしう思ふ給へつるに。

俄にかの宮の物し給ならん人のきゝみることもな

さけなきよ。うちほのめきて参りきなんとて出

給。よきうへの御ぞ。柳のしたがさねあをにびのさし

ぬきき給て。ひきつくろひたまへるいともの/\し。

などかはにげなからんと人々は見奉るを。かんの君はかく

る事をきゝ給につけても。身の心づきなうおぼし

しらるれば。みもやり給はず宮にうらみきこえんとて

まうで給まゝに。まづとのにおはしたれば。もくの君な

どいできて。ありしさまかたり聞ゆ。姫君の御ありさ

 

 

22

まきゝ給て。おゝしくねんじ給へど。ほろ/\とこ

ぼるゝ御けしきいとあはれなり。さてもよの人にも

にずあやしき事どもをみすぐす。こゝらのとしごろの

心ざしをみしり給はずも有けるかな。いと思ひのまゝ

ならん人は今までもたちとまるべくやはある。よしかの

さうじみ(正身)はとてもかくてもいたづら人とみえ給へばお

なじ事なり。おさなき人々もいかやうにもてな

し給はんとすらんとうちなげきつゝ。かのまきばし

らを見給にても。おさなけれど心ばへのあはれにこ

ひしきまゝに。やすがらなみだをしのごひつゝまうで

給へれば。たいめ(対面)し給べくもあらず。なにかたゞときに

 

うつる心の。いまはじめてかはり給にもあらず。年ごろ

思ひうかれ給さま聞わたりてもひさしく成ぬるを。

いづくを又思ひなをるべきをりとかまたむ。にくげに

いとゞひが/\しきさまにのみこそみえはて給はめ

と。いさめ申給ことはりなりいとわか/\しき心ち

もし侍るかな。おもほしすつまじき人々も侍れ

ばと。のどかに思ひ侍りける心のおこたりを返/\

聞えてもやるかたなし。今はたゞなだらかに御らん

じゆるしてうtみさり所なう。よの人にもことはらせ

てこそ。かやうにももてない給はめるなど聞えわづらひ

ておはす。姫君をだに見奉らんときこえ給へれどい

 

 

23

たしたてまつるべくもあらず。おとこ君だち十なるは

殿上し給ふ。いとうつくし人にほめられて。かたちなど

ようはあらねどいとらう/\しう物の心やう/\しり

給へり。つぎの君はやつ(八)ばかりにて。いとらうたげにて。

姫君におぼえたれば。かきなでつゝ。あこをこそはこひ

しきかたみにもみるべかめれなどうちなきてかたら

ひ給。宮にも御けしき給はらせ給へど。風おこりてため

らひ侍るほどにてとあれば。はしたなくていで給ぬ。

この君だちをば車にのせてかたらひおはす。六条殿

はえい(率)ておはせねば殿にとゞめて。なをこゝにあ

れ。きてみんにも心やすかるべくとの給。うちながめて

 

いと心ぼそけに見をくりたるさまども。いとあはれな

るにも物思ひくはゝりぬる心ちすれど。女君の御あり

さまのみるかひありてめでたきにひが/\しき御

さまを思ひくらぶるもこよなくてよろづをなぐさ

め給。うちた(絶)えてをつづれもせずはしたなかりしに

ことつけがほなるを。宮にはいみじうめさましかりな

げき給。春の上(紫の上)もきゝ給てこゝにさへうらみらるゝゆへに

なるがくるしきことゝ。おとゞの君いとおしとおぼして

かたき事なり。をのがこゝろひとつにもあらぬ人のゆ

かりに。うちにも心をきたるさまにおぼしたなり

兵部卿みやなどもえんじ給ときゝしを。さいへど思ひ

 

 

24

やりふかうおはする人にて。きゝあきらめうらみとけ

給にたなり。をのづから人のなからひはしのぶる事と

思へと。かくれなき物なればこゝにおふべきつみもなし

となん思ひ侍るとの給。かゝることゞものさはぎに。かん

の君の御けしきいよ/\はれまなきを。大将はいと

おしと思あつかひきこえて。このまいり給はんと

ありしことも。たえきれてさまたげきこえつるを内

にもなめく心あるさまにきこしめし人々もおぼ

す所あらん。おほやけ人をたのみたる人はなくやはあ

ると思ひ返してとしかへりて参らせたてまつり

給。おとこだうか(男踏歌)ありければ。やがてそのほどにぎし

 

きいといかめしく。に(二)なくてまいり給かた/\゛のおとゞ

たちこの大将の御いきほひさへさしあひ。さい相中将

ねんごろに心しらひ聞え給。せうとの君たちもかく

るおりにとつどひ。ついせうしよりてもてなしかし

づき給さまいとめでたし。承香殿の東おもてに御

つぼねしたり。西に見たの女御はおはしければ。めだうば

かりのへだてなるに。御心の中ははるかにへだゝりけん

御かた/\゛いづれとなくいどみかはし給て。うちわたり心

にくゝおかしき頃をひなり。ことにみだりかはしきかう

いたちあまたもさふらひ給はず。中宮こき殿の女御

このみやの女御たのおほとのゝ女御などさふらひ給さ

 

 

25

ては中納言宰相のむすめふたりばかりぞさふらひ給

ける。たうかはかた/\゛にさとひとまいりさまことに

たれも/\きよらをつくし袖ぐちのかさなり。こち

たくめでたくとゝのへ給ふ。春宮の女御のいとはなやか

にもてなし給ふて。宮はまたわかくおはしませどす

べていといまめかし。御前中宮の御かたすさくいんと

にまいりて。夜いたうふけにければ。六条院にはこの

たびは所せしとはぶき給ふ。朱雀院よりかへりま

いりて。東宮の御かた/\゛めぐるほどに夜あけぬほの/\゛

とおかしきあさぼらけにいたくえひみだれたるさま

して。たけ川(竹河)うたひ(謡)けるほどをみればうちの大殿の

 

君だちは四五人ばかり。殿上人の中にこえすぐれかたち

きよらにて。うちつゞき給へるいとめでたし。わらはな

る八郎君は。むかひはらにていとうつくしう。大将どの

の太郎ぎみとたちならびたるを。かんのきみもよそ人

と見たまはねば御めとまりけり。やんごとなくまし

らひなれたまへる御かた/\゛よりも。この御つぼねの

袖ぐちおほかたのけはひまめかしうおなじものゝ

いろあひかさなりなれど。ものよりことにはなやか

なり。御うしろみも女ばうたちもかやうに御心やりて

しばしはすぐひたまはましをと思ひあへり。みなおな

じごとかづけわたすなるにわたの様もにほひこと

 

 

26

にらう/\しうしなし給て。こなたはみづむまや(水駅)

なりけれどけはひにぎはしく。人々心けさうし

そへて。かぎりあるみあるじ(御饗)などの事どももしたる

さま。」ことによういありてなん。大将殿せさせ給へりけ

る。殿い(宿直)所にい給て。日ひとひ(一日)聞えくらし給事は

夜さり。まかでさせ奉りてんかゝるついでにとおぼ

しうつるらん。御みやづかへなんやすからぬとのみおなじ

ことをせめ聞え給へど。御返なし。さふらふ人々ぞ

おとゞのこゝろあはたゝしきほどならで。まれ/\の御

まいりなれば御心ゆかせ給ふばかりゆるされありてを

まかでさせ給へと聞えさせ給ひしかば。こよひはあま

 

りすが/\しうやと聞えたるを。いとつらしと思て。

さばかり聞えしものをさもこゝろにかなはぬ世かな

とうちなげきてい給へり。兵部卿宮御前の御あそ

びにさふらひ給て。しづ心なくこの御つぼねのあたり

思ひやられたまへば。ねんじあまりて聞え給へり。

大将はつかさの御ざうしにぞおはしける。それよりと

てとりいれたればしぶ/\に見給ふ

 (兵部卿)み山きにはねうちかはしいる鳥の岐なくねたき

春よもあるかなさへづるこえのみゝとゞめられてなん

とあり。いとをしうおもてあかみて聞えんかたなく

思い給へるに。うへ(主上)わたらせ給。月のあかきに御かたち

 

 

27

はいふよしなくきよらにて。たゞかのおとゞの御け

はひにたはふところなくおはします。かゝる人はまたも

おはしましけりと見奉り給。御心ばへはあさから

ぬもうたてもの思ひくはゝりしを。これはなどかはさ

しもおぼえさせ給はん。いとなつかしげにおもひしこ

とのたがひにたるうらみをの給はするに。おもてを

かんかたなくぞおぼえ給ふや。かほをもてかくして御い

らへも聞え給はねばあやしうおぼつかなきわざかな。

よろこびなども思しり給はんと思ふことあるを。きゝ

いれ給はぬさまにのみあるは。かゝる御くせなりけりと

の給はせて

 

 (帝)などてかくはい(灰)あひがたきむらさきを心にふかく

思ひそめけんこくなりはつまじきにやとおほせら

るゝさま。いとわかくきよらにはづかしきを。たがひ

給へるところやはあると思なぐさめてきこえ給。みや

づかへのらうもなくてことし。かくいし給ふ心にや

 (玉)いかならん色ともしらぬむらさきを心してこそ人

はそめけれ今よりなん思ふ給へしるべきと聞え給へば

うちえみて(←御門が)そのいまよりそめ給はんこそ。かひなかべいこと

なれ。うれふべきあらばことはりきかまほしくなん

と。いたううらみさせ給。御けしきのまめやかにわづら

はしければ。いとつたてもあるかなとおぼえて。おかし

 

 

28

きさまをもみえ奉らじ。むつかしきよ(世)のくせなり

けりと思ふにまめだちてさふらひ給へば。えおぼす

さまなるみだれごともうちいでさせ給はで。やう/\

こそはめなれめとおぼしけり。大将はかくわたらせ給へ

るを聞給ていとゞしづ心なければいそきまどはし

給。みづからもにげなき事もいできぬべき身なりけ

りと心うきにえのどめ給はず。まかでさせ給べき

さま。つき/\゛しきことつけどもつくり出てちゝお

とゞなどかしこくたばかり給てなん。御いとまゆるさ

れ給ける。さればものごりして又いだしたてぬ人も

ぞある。いとこそからけれ。人よりさきにすみまし心ざし

 

の人にをくれて。けしきとりしたがふよ。むかしのな

にがしがためしもひきいでつべき心ちなんするとて。

まことにいと口おしとおぼしめしたり。きこしめし

しにもこよなきちかまさりを。はじめよりさる御心

なからんにてだにも御覧じすぐすまじきをまいて

いとねたうあかずおぼさるれど。ひたふるにあさきかた

に思ひうとまれじとて。いみじう心ふかきさまにの給

契りて。なつけ給もかなしけなう。我はわれと思ふ物を

とおぼす。御て車(御輦車)よせてこなたかなたの御かしづき

人とも心もとなかり。大将もいと物むつかしう立そひ

さはぎ給ふまでえおはしましはなれず。かういとき

 

 

29

びしき。をきまもりこそむつかしけれとにくませ給ふ

 (帝)九重にかすみへだてば梅の花たゞかばかりもにほ

ひこしとやことなる事なき事なれども。御有さま

けはひをみたてまつる程はおかしくもや有けん。野を

なつかしみあかいつべき夜をおしむべかめる人の身を

つみて心ぐるしうなん。いかでか聞ゆべきとおぼしな

やむも。かたじけなしと見奉る

 (玉)香ばかりは風にもつてよ花のえにたちならぶべき

にほひなくともさすがにかけはなれぬけはひを哀と

おぼしつゝ。かへり見がちにてわたらせ給ぬ。大将やがて

こよひかの殿にとおぼしまうけたるを。かねてはゆる

 

されあるまじきによりもし聞え給はで。にはか

にいとみだり風のなやましきをこゝろやすき所に

うちやすみ侍らんほどにぞ。よそにてはいとおぼつか

なくはべらんをとおいらかに申ない給てわたし奉り給、

おとゞにはかなるを。ぎしきなきやうにやとおぼせと

あながちにさばかりのことをいひさまたげんも人の心

をくべしとおぼせば。ともかくももとよりしたひなら

ぬ人の御事なればとぞ聞え給ける。六条院ぞいとゆく

りなくほいなしとおぼせど。などかさはあらん。女も

しほやくけふりのなびきけるかたをあさましとお

ぼせど。ぬすみもていきたらましとおぼしなずら

 

 

30

へていとうれしとこゝちおちいぬ。かのいりいさせ給へり

しことをいみしうえんじきこえさせ給ふも。心づ

きなくなを/\しき心ちして世には心とけぬ御も

てなしいよ/\けしきあし。みやにもさこそたけう

の給しが。いみじうおぼしわゔれとたえてをとづれず。

たゞ思ふ事かなひぬる。御かしづきに明暮いとなみ

てすぐし給。二月にもなりぬ。大殿はさてもつれなき

わざなりや。いとかうきは/\しうとしも思はで。た

ゆめられたるねたさを。ひとわろくすべて御こゝろ

かゝらぬおりなくこひしうおもひいでられ給。すくせ

などいふものをろかならぬことなれど。わかあまりなる

 

心にてかく人やりならぬものは思ふぞかしと。おきふし

おもかけにぞみえたまふ。大将のおかしやかにわらゝ

かなるけもなき人にて。そひいたらんに。はかなきた

はふれこともつゝましうあひなくおぼされて。ねん

じ給を雨いたうふりていとのどやかなる頃。かやうの

つれ/\゛もまぎらはし所にわたり給て。かたらひ給

しさまなどのいみじうこひしければ。御文奉り給ふ

右近がもとにしのびてつかはすも。かつはおもはん事

をおぼすに。なに事もえつゞけたまはで。たゞおもは

せたることゞもぞありける

 (源)かきたれてのどけきころの春雨にふるさと人を

 

 

31

いかにしのぶやつれ/\゛にそへてもうらめしう思ひい

でらるゝことおほう侍るを。いかでかは聞ゆへからんなどあ

り。ひまに忍びて見せ奉れば打なきて。わが心にも

ほどふるまゝに思ひ出られ給。御さまをまほに恋しや

いかて見奉らんなどはえの給はぬ。おやにてげにいか

でかたいめもあらんとあはれなり。とき/\゛むつかしか

りし御けしきを心づきなう思ひ聞えしなどは

このひとにもしらせ給はぬ事なれば心一におぼし

つゞくれど。右近はほのけしきみたりいかなりけると

はいまに心得がたむ思ける。御返聞ゆるもはづかしけ

れどおぼつかなくやはとてかき給へり

 

 (玉)ながめする軒のしづくに袖ぬれてうたかた人を

しのばざらめやほどふるころはげにことなるつれ/\

もまさり侍けり。あなかしこといや/\しくかきなし

給へり。ひきひろけて玉水のこぼるるやうにおぼさ

るゝを。人もみばうたてあるべしとつれなくもてなし

給へど。むねにみつ心ちして。かのむかしのかんの君を

朱雀院の后のせちにとりこめ給したりなどおぼ

いづれどさしあたりたる事なればにやこれは

よつかずぞあはれなりける。すいたる人はこころからやす

かるまじきわざなりけり。いまはなにゝつけてか心

をもみだらまし。にけなき恋のつまなりやとさま

 

 

32

しわび給て。御ことかきならしてなつかしうひき

なし給しつまをと思いでられ給。あづまのしらべを

すがゝきて。玉もなかりそとうたひすさひ給も。こひし

き人にみせたらばあはれにすぐすまじき御さまなり。

うちにもほのかに御らんぜし御かたちありさまを

こゝろにかけ給て。あかもたれひきいにしすがたをと

にくげなくふる事なれど御ことぐさになりてなん

ながめさせ給ける。御ふみはしのび/\にありけり。身(玉が)

をうき物に思しみ給てかやうのすさひ事をもあ

ひなくおぼしければ。心とけたる御いらへも聞え給

はず。なをかのありがたかりし御心をきてを。かた/\゛

 

につけて思ひし給へる御事ぞわすれざりける。

三月(やよひ)になりて六条殿の御まへの藤山ぶきのおもし

ろき夕ばへを見給てつけても。まづみるかひありてい

給へりし御さまのみおぼし出てれば。春の御まへをう

ちすてゝこなたにわたりて御覧ず。くれ竹のませに

わさとなうさきかゝりたる匂ひいとおのしろし。色

に衣をなとの給て

 (源)おもはずにいでのなか道へだつともいはでそこふ

る山ぶきの花かほにみえつゝなどの給も聞人なし。

かくさすがにもてはなれたる事はこのたびぞおぼし

ける。げにあやしき御心のすさひなりや。かりのこ(子)の

 

 

33

いとおほかるを御覧じて。かんじたちばななどやう

にまぎらはしてわざとならずたてまつれ給。御ふみ

はあまり人もぞめたつ(目立つ)るなどおぼしてすくよかに

おぼつかなき月日もかさなりぬるを。おもはずなる

御もてなしなりとうらみ聞ゆるも。御心ひとつにのみ

はあるまじう聞侍れば。ことなるついでならでは

たいめんのかたからむとくちおしう思ひ給ふな

ど。おやめきかきたまひて

 (源)おなじすにかへりしかひの見えぬかないかなる

人かて(手)ににぎるらんなどかさしもなと心やましう

なんなどあるを。大将も見給て打わらひて。女はま

 

ことのおやの御あたりにもたはやすくうちわたり見

えたてまつり給はんこと。ついでなくてあるべきこ

とにあらず。ましてなぞこのおとゞのおり/\思はな

たじゅらみこどはし給ふとつぶやくも。にくしと

きゝ給。御返こゝにはえ聞えじとかきにくゝおぼいた

れば。まろ聞かんとか(代)はるもかたはらいたしや

 (黒髭)すがくれてかずにもあらぬかりのこをいづかたにか

はとりかへすべきよろしからぬ御けしきにおどろ

きて。すき/\゛しやときこえ給へり。この大将のかゝる

はかなしごといひたるもまだこそきかざりつれ

めつらしうとてわらひ給。心のうちにはかくらうじた

 

 

34

るをいとにくしとおぼす。かのもとの北のかたは月日

へだゝるまゝに。あさましとものを思ひしづみ。いよ/\

ほけしれてものし給。大将どのゝおほかたのとふ

らひなにごとをもくはしうおぼしをきて。君だち

をばかはらず思ひかしづき給へば。えしもかけはなれ

給はずまめやかなるかたのみは。おなじ事にあてなん

ものし給ける。ひめぎみをぞたへがたくこひ聞え給へ

ど。たえて見せ奉り給はず。わかい御心のうちにこの

ちゝぎみを誰も/\ゆるしなううらみ聞えていよ/\

へだて給ふ事のみまされば。心ぼそくかなしきに

おとこ君だちはつねに参りなれつゝ。かむの君の御

 

ありさまなとをも。をのつからことにふれてうちかた

りて。まろをもらうたくなつかしうなんし給。あ

けくれおかしき事をこのみ物し給などいふに。浦

やましうかやうにてもやすらかにふるまふ身な

らざりけんをなげき給。あやしうおとこ女につけ

つゝ人にものをはおもはするかんの君にぞおはしける。

そのとしの十一月にいとおかしきちごをさへいだき

いで給へれば大将も思ふやうにめでたしともてかし

づき給事かぎりなし。そのほどのありさまいは

ずとも思ひやりつべきことぞかし。ちゝおとゞもをの

づから思ふやうなる御すくせとおほしわたり。わざ

 

 

35

とかしづき給きんだちにも御かたちなどはおとり

給はず。頭中将もこのかんの君をいとなつかしきは

らからにてむつび聞え給ふ物から。さすがなる御けし

きうちまぜつゝ。みやづかへにかひありてものし給は

まし物をと。このわかぎみのうつくしきにつけて

も今までみこたちのおはせぬ御なげきをみた

てまつるに。いかにめいぼくあらましとあまりごと

をぞ思ての給。おほやけごとはあるべきさまにしり

給などしつゝ参り給事ぞ。やがてかくてやみぬべか

める。さてもありぬべき事なりかし。まことやかのう

ちのおほいどのゝ御むすめのないしのかみ。のぞみし

 

君も。さる物のくせなればいろめかしうさまよふ心

さへそひて。もてわづらひ給ふ。女御もついにあは/\

しきことこの君ぞ。ひきいでんとともすれば御むね

つぶし給へど。おとゞのいまはなまじらひそとせいし

の給をだにきゝいれずまじらひいでゝ物し給。いか

なるおりにかありけん。殿上人あまたおぼえことな

るかぎり。この女御の御かたにまいりてものゝねなど

しらべなつかしきほどのひやうしうちくはえてあそ

ぶ。秋の夕のたゞならぬに最小の中将もよりおはして。

れいならずみだれてものなどの給を。人々めづらし

がりてなを人よりことにもとめつるに。このあふみ

 

 

36

の君人々のなかををしわけていでい給。あない

たてやこはなぞとひきいるれば。いとさがなげににら

みていりいたれば。わづらはしくてあふなきことや

の給ひでんとつきかはすに。この世にめなれぬまめびと

をしもこれぞなくとめでゝさゝめきさはぎ。こえいと

しるし。人々いとくるしとおもふにこえいとさはやか

にて

 (近江の君)おきつふねよるべなみぢにたゝよはゞさほさしよ

らんとまりをしへよたなゝし(棚なし)をぶね(小舟)こぎかへりお

なじひとをやあなわるやといふを。いとあやしう。

この御かたにはかうようい(用意)なき事聞えぬものをと

 

思ひまはすに。このきく人なりけりとおかしうて

 (夕霧)よるべなみ風のさはがす舟人もおもはぬかたにい

そつたひせずとてはしたなかめりとや

 

 

 

 

 

 


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