読んだ本
『一目千本』(大阪大学附属図書館所蔵)
出典: 国書データベース,https://doi.org/10.20730/100080738
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華すまひ序
月は隈(くま)なきをのみ詠(なか)め
花は盛(さかり)をこそ珍重(もてはや)す
これ皆世の人の常なる
へし 美人もまたふた
りには過(すき)す 只(たゝ)たのしみは
其(その)一色(ひといろ)になんよるべけれ
盧生(ろせい)が 四季折々は
目の前と極(きはめ)し栄花(えいくは)も
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暁(あかつき)といふ限(かきり)あり 爰(こゝ)に
名にしおふ青楼(せいろう)の栄(えい)
花(くは)は さ(斜)くらに春の長
きをしらす 郭公(ほとゝきす)に薄(うす)
着(き)をしらす 秋たつ風
に暮(くれ)の淋(さひ)しみをしらす
雪の降(ふる)日も寒さを
知らす かゝる限りなきたの
しみこそ まことの栄(えい)
花(くは)とはいふなるへし この
頃 一人の大尽(たいしん)来(きた)り 戯(たはむれ)に
此(この)里(さと)の遊君(ゆうくん)の角力(すまひ)を
見まほしきよし(由)を求(もと)む
里雀(りしゃく)てふもの(という者)承(うけたまは)り 四(し)
季(き)の花を名君の姿(すかた)に
よそへ 春夏を東と
さため(定め) 秋冬を西と極(きは)
めて 既にすまひを初
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めける
抑(そも/\)相撲(すまひ)の取組(とりくみ)は 紅白(かうはく)
むらさき 薄浅葱(うすあさき) こゝろ(呂)
/\に色香(いろか)を闘(たゝか)ふ 紫(むらさき)は
あけ(朱・明)を奪ひ 夜の黄色は
白きを欺(あさむ)く 三十二相(さう)
八十種好(しゆかう)互(たかひ)に争ふ(あらさふ)百(もゝ)
の媚(こひ)
行司(きやうし)次第(したい)に団扇(うちは)を
あけ(上げ) 西か(が)勝(かち) いや/\ 東か
勝と 御贔屓(こひいき)の手すりも
動(うこ)く御言葉(ことは)は 一から十
まて取組か わるい/\の御
評義(ひやうき)に 作者は燈臺(たうたい)元(もと)
くらし 御見物(けんふつ)のお目
かねかうこかぬ(お眼鏡が動かぬ?)所 今日(こんにち)は
初日(しよにち)
7(挿絵)
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とうざい/\今日は先以(まづもつて)
すまひの初日とこさり
まして 何茂様(いつれもさま)早朝(さうてう)より
御出くたされまするたん(段) 作
者本屋は申(もうす)に及す(およばず) 惣(そう)
座中(ざちう) いか斗(はかり)大慶至極(たいけいしこく)に
奉存(たてまつりぞんじ)ます 扨(さて)遊君四季
の花角力(はなすまひ)とり組か肝心(かんしん)
かなめ 勝負(かちまけ)は御贔屓の
御言葉にこさりますれば
とくと御神妙に御一覧
くだされませふ 急のおもひ
付ゆへ おほしめし(思召)違ひ
ました所は 前後柳(ぜんごやなぎ)と御
一覧のほど こひねがひ奉り
ます 此上(このうへ)思召(おほしめし)もござります
ならば 御しらせ下されませふ
二のかはりに評判勝負付(つけ)
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御目にかけまする 御存(こそんし)の
ことゝ名君達も大せい(大勢)
に御さりますれば 此うちに
もれました方(かた)は あとの
趣向に御目にかけまする
扨 わけて御断(おことはり)を申上(もうしあげ)
まするは 行司(きやうし)双方(さうほう)もらひ
まするせつ(節)は 御見物様
方 御いひ分(言い分)なく 行司へ
御預(あつ)けくたされませふ 此
たん(段)前(まへ)に申上置(をき)ます
くらへ見よ 西と
東の花の(濃)雲
紅塵陌人(こうじんはくじん)述