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源氏物語(二十八)野分

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読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/pid/2567586

 

1

野分

 

2

中宮のおまへに秋の花をうへさせ給へる事

つねのとしよりもみどころおほくいろくさ

をつくしてよしあるくろきあかきのませ

をゆひまぜつゝおなじき花の枝ざしす

がたあきゆふ露のひかりもよのつねならず

玉かとかゝやきて御つくりわたせる野べの色

をみるに。はた春のやあMもわすられてすゞしう

おもしろく心もあくがるゝやうなり。はる秋の

あらそひにむかしよりあきに心をよする

人はかずまさりけるを。名だゝる春のおまへ

の花ぞのにこゝろよせし人々又ひきかへし

 

 

3

うつろふけしき世の有さまににたり。これを御

覧じつきてさとい(里居)し給ほどに。御あそびなど

もあらまほしけれど。は月は故前坊の御忌月

なれば心もとなくおぼしつゝあけくるゝに。この

花いろまさるけしきどもを御らんずるに。野

分れいの年よりもおどろ/\しく空の色

かはりてふきいづ。はなどものしほるゝをいと

さしもおもひしまぬひとだにあなわりなと

思ひさはがるゝを。まして草むらの露の玉のを

みだるゝまゝに御心まどひもしぬべくおぼし

たり。おほふばかりの袖はあきの空にしも

 

こそほしげなりけれ。暮行まゝにものもみえず

ふきまよはして。いとむくつけゝれば御かうし

など参りぬるに。うしろめたくいみじと花

のうへをおぼしなげく。みなみのおとゞにもせん

ざいつくろはせ給ひける折にしもかくふき

出て。もとあらのこ蘒(萩)、はしたなくまちえ

たる風のけしきなり。おれかへひ露もとまる

まじく吹ちらすを。すこしはしちかくて見

給。おとゞは姫君の御かたにおはしますほどに。

中将の君まいり給ふてひんがしのわたどのゝ

こさうじ(小障子)のかみよりつまどのあきたるひま

 

 

4

 

をなに心もなく見いれ給へるに。女房のあま

たみゆればたちとまりてをともせでみる。

御屏風もかぜのいたくふきければをしたゝみ

よせたるに。見とをしあらはなる。ひさしのお

ましにい給へる人。ものにまぎるべくもあらず

けたかくきよらに。さと匂ふこゝちして。はる

の明ぼのゝかすみのまよりおもしろきかば

ざくらのさきみだれたるをみる心ちす。あぢき

なくみたてまつるわがかほにもうつりくるやう

に。あい行は匂ひたり。又なくめづらしき人の

御さま也みすふきあげけるを人々をさへ

 

て。いかにしたるにかあらん。うちわらひ給へるいと

いみじうみゆ。はなどもを心ぐるしがりてえ見

すてゝいり給はず。おまへなる人々もさま/\゛に

物きよげなるすがたどもは見わたさるれどめ

うつるべくもあらず。おとゞのいとけどをくはる

かにもてなし給へるは。みる人たゞにはえ思ふ

まじき御ありさまをいたり深き御心にて

もしかゝる事もやとおぼすなりけりと思ふ

にけはひおそろしうてたちさるにぞ。西の

御かたよりうちのみざうしひきあけてわた

り給ふ。いとうたてあはたゝしき風なめり

 

 

5

みかうしおろしてよをのこどもあるらんを。

あらはにもこそあれと聞え給を。またより

て見れば物聞えておとゞもほゝえみてみ奉り

給。おやともおぼえずわかくきよげになま

めきていみじき御かたちのさかりなり。女も

ねびとゝのひあかぬ事なき御さま共なるを

みるに身にしむばかりおぼゆれど。このわた殿

のひんがしのかうしも吹はなちてたてる

所もあらはになればおそろしうてたちのきぬ。

今まいれるやうに打こはづくりて。すのこのかた

にあゆみいで給へれば。さればよあらはなりつらん

 

とてこのつまどのあきたりけるよといまぞ

見とがめ給。とし頃かゝることの露なかりつるを。

風こそげに岩ほをもふきあげるべきものなり

けれ。さばかりの御心どもをさはかしてめづらしく

うれしきめをみつるかなとおぼゆ。人々参りて

いといかめしうふきぬべき風にははべり。うしと

らのかたより吹侍れば。このおまへはのとげき

なり。むまばのおとゞ。みなみのつりどのなどは

あやうげになんとてとかく事おこなひのゝしる。

中将はいづこより物しつるぞと。三条の宮に侍り

つるを風いたくふきぬべしと人々の申つれば

 

 

6

おぼつかなさになん参りて侍りつる。かしこには

まして心ぼそくkぜのおとをも今はかへりて

わかきこのやうにをぢ給めれば。心ぐるしさに

まかではべりなんと申し給へば。げにはやまうで

給ねおいもていきてまたわかうなること世に

あるまじきことなれとげにさのみこそあなれ

とあはれがり聞え給て。かくさはがしげに侍

めるを。このあそんさふらへばと思ひ給へゆづり

てなんと御せうそこ聞え給。みちすがらいり

もみする風なれどうるはしく物し給君にて

三条の宮と六条院とに参りて御らんぜ

 

られ給はぬ日なし。内の御物いみなどにえさら

ずこもり給ふべき日よりほかは。いそがすぃきおほ

やけごと。せち会などのいとまいるべく。ことしげ

きにあはせても。まづ此院に参り。宮(三条)よりぞ

いで給ひければ。ましてけふかゝる空のけしきに

より。かぜのさきにあくがれありき給もあはれ

にみゆ。宮いとうれしうたのもしとまちうけ

給て。こゝらのよはひにまたかくさはがしき

野分にこそあはざりつれと。たゞわなゝきに

わなゝき給。おほきなる木の枝などのおるゝ

をともいとうたてありやおとゞのかはらさへのこる

 

 

7

まじく吹ちらすに。かくて物し給へることゝかつ

はの給ふ。そこら所せかり(狭かり)し御いきほひのしづ

まりてこの君をたのもし人におぼしたるつね

なき世なり。いまもおほかたのおぼえのう

すらぎ給事はなけれど。内のおほいとのゝ御け

はひはなか/\すこしうとくぞありける。中将

よもすがらあらき風のをとにも。すゞろに物

あはれに心にかけて恋しとおもふ人の御こと

はさしをかれて。有つる御おもがけのわすれ

ぬをこはいかにおぼゆる心ぞあるまじき思ひ

もこそそへ。いとおそろしきことゝみづから思ひ

 

まぎらはし。こと事に思ひうつれどなをふと

おぼえつゝきしかた行すえ有がたうも物し

給けるかな。かゝる御なからひにいかてひんがしの御

方さる物のかずにて立ならび給へらんたとしへ

なかりけりや。あないとおしとおぼゆ。おとゞの御

心ばへをありがたしと思ひしり給ふ。ひとから

のいとまめやかなれば。にげるさを思ひよらねど。

さやうならん人をこそおなじくはみてあかし

くらさめ。かぎりあらん命の程もいますこし

はかならずのびなんかしと思ひつゞけらる。

暁がたに風すこししめりてむら雨のやうに

 

 

8

ふりいづ。六条院にははなれたるやどもたふれた

りなど人々申す。風の吹まよふほどひろく

そこらたかき心ちする院に人々はたおはし

ます。おとゞのあたりにこそしげゝれ。ひんがしの

まちなどは人ずくなにおぼされつらんとおど

ろき給て。まだほの/\゛とするに参り給みち

の程。よこさま雨いとひやゝかにづりいる。そらの

けしきもすごきに。あやしくあくがれたる心

ちしてなに事ぞや。又わが心に思ひくはゝれる

よと思ひいづればいとにげなき事なりけり。

あな物ぐるをしと。と様かうさまに思ひつゝ東の

 

御かたにまづまうで給へれば。をぢこうじておはし

けるに。とかく聞えなぐさめて。人めして所々つ

くろはすべきよしなどいひをきて。みなみのおとゝ

にまいり給へれば。まだみかうしもまいらずお

はしますに。あたれるかうらんにをしかゝりて

みわたせば。山の木どもゝふきなびかして。枝

どもおほくおれふしたり。草むらはさらにも

いはず。ひはだかはらところ/\゛のたてじとみ。す

いがいなどやうの物みだりがはし。日のわづかに

さし出たるに。うれへがほなる庭の露さら/\と

してそらはいとすごく。きりわたれるに。そこ

 

 

9

はかとなくなみだのおつるを。をしのごひかく

してうちしはぶき給へれば。中将のこはづくり

にぞあなる。夜はまだふかゝらんはとておき給ふ

なり。なにごとにかあらん聞え給こえはせで。お

とゞうちわらひ給ふて。いにしへだにしらせたて

まつらず成にしあかつきのわかれよ。今ならひ給

はんに心ぐるしからんとて。とはかりかたらひ聞え

給けはひどもいとおかし。女の御いらへはきこえ

ねどほの/\゛かやうに聞えたはふれ給ことおn

はのおもむきにゆるひなき御なからひかなとき

きい給へり。見かうしを御てつからひきあけ

 

給へば。けぢかきかたはらいたさにたちのきてさ

ふらひ給。いかにぞよべ宮はまちよろこび給きや。

しか。はかなきことにつけても涙もろにものし

給へばいとふびんにこそ侍れと申給へば。わらひ

給て今いくばくもおはせじまめやかにつかうま

つりみえ奉れ。内のおとゞはこまやかにしも有

まじうこそうれへ給しが。ひとがらあやしうは

なやかにおゝしき方によりて。おやなどの御

けうをもいかめしきさまをばたてゝ。人にも見

おどろかさんの心あり。まことにしみてふかき

所はなき人になん物せられける。さるは心のくま

 

 

10

おほくいとかしこき人の。すえの世にあまる

までさい(才)たぐひなくうるさながら人として

かくなんなき事はかたかりけるなどの給。いと

おどろ/\しかりつる風に。中宮のはか/\゛しき

宮づかさなどさふらひつらんやとて。此君して

御せうそこ聞え給。よるのかぜのをとをばいかゞ

きこしめしつらん。吹みだり侍しにをこりあ

ひ侍て。いとたへがたきみためらひ侍る程になん

とて聞え給。中将おりてなかのらうの戸

より。とをりてまいり給。朝ほらけのかたち

いとめでたくおかしげなり。東のたいの南のそば

 

にたちて。たまへのかたをみやり給へば。御かうしふ

たまばかりあげて。ほのかなるあさぼらけの程

に。みすまきあけて人々いたり。かうらんに

をしかゝりつゝ。わかやかなるかぎりあまたみゆ。

うちとけたるはいかゞあらん。さやかならぬ明くれ

のほど。色々なるすがたはいづれ共なくおかし

わらはべおろさせ給てむしのこどもに露かはせ

給なりけり。しをんなでしここきうすき

あこめどもにをみなへしかざみなどやうの。と

きにあひたるさまにて。四五人ばかりつれてこゝ

かしこの草むらによりて。いろ/\のこどもを

 

 

11

もてさまよひ。なでしこなどのいとあはれげ

なるえだともとりもてまいる。きりのまよひ

はいとえむにぞみえける。吹くるをひ風はしを

にこと/\゛に匂ふらん。かうのかほりもふれはひ

給へる御けはひにやといと思ひやりめでたく。

心けさうせられてたちいでにくけれど。師のみ

やかにうちをとなひてあゆみいで給へるに。

人々けざやかにおどろきがほにはあらねど。みな

すべりいりぬ。御参りの程などわらはなりしに。

入たちなれ給へる。女房などもいとけうとくは

あらず。御せうそこけいせさせ給ひて。宰相の

 

君内侍などけはひすれば。わたくしごともし

のびやかにかたらひ給ふ。これはたさいへどけたかく

すみたるけはひのありさまをみるにもさま/\

にもの思出らる。南のおとゞにみかうし参り

わたして。よべみすてがたかりし花どものゆくえ

もしらぬやうにて。しほれふしたるをみ給けり。

中将みはしにい給て御かへり聞え給ふ。あら

き風をもふせがせ給ふべくやと。わか/\しく心

ぼそくおぼえ侍るを。いまなんなくさめはべりぬ

ると聞え給へれば。あやしくあえかにおはす

るみやなり。女どちはものおそろしくおぼし

 

 

12

ぬべかりつる夜のさまなれば。けにをえおかなりと

もおぼいてんとて。やがてまいり給ふ。御なをし

などたてまつるとて。みすひきあけていり

給に。みじかき御几丁ひきよせてはつかに見

ゆる御袖ぐちはさにこそはあらめと思ふに。むね

つぶ/\となる心ちするもうたてあれば。ほか

さまに見やりつ。殿御かゞみなど見給て。しの

びて中将のあさけのすがたはきよげなりな

たゝ今はきびはなるべきほどを。かたくなし

からずとみゆるも心のやみにいやとてわか御かほ

はふりがたくよしとみ給ふべかめり。いといたう心

 

げさうし給て宮にみえたてまつるははづかしう

こそあれ。何ばかりあらはなるゆへ/\しさも

みえ給はぬ人の。おくゆかしう心つかひせられ給

ぞかし。いとおほどかにをんなしき物から。けし

きづきてぞおはするやとていで給に。中将なかめ

いりてとみにもおどろくましきけしきに

てい給へるを。心とき人の御めにはいかゞみ給けん

たちかへり女君にきのふ風のまぎれに中将は

み奉りやしてけん。かのあきたりしに

よとの給へばおもてうちあかみていかでか。さは

あらんわたどのゝかたには人のをともせざりし

 

 

13

ものをと聞え給。なをあやしとひとりご

ちてわたり給ぬ。みすのうちに入給ぬれば。中

将わたどのゝとぐちに人々のけはひするに

よりてものなどいひたはふるれど。思ふ事のすぢ/\

 

まけかしうて。れいよりもしめりてい給へり。

こなたよりやがて北にとをりてあかしの御かた

をみやり給へば。はか/\゛しきげいじだつ人な

どもみえず。なれたるしもづかへよぞ。草のなか

にまじりてあり/\わらはべなどおかしき

あこめすがたうちとけて。心とゞめとりわきうへ

給ふりんだう。あさかほのはひまじれるませも。

 

みなちりみだれたるを。とかくひきいでたづぬる

なるべし。ものゝあはれにおぼえけるまゝに。さう

のことをかきまさぐりつゝ。はしちかくい給へる

に。御さきをふ越えのしければ。うちとけなへばめ

るすはたに。こうちき引おとしてけぢめみせ

たるいといたし。はしのかたについい給て。風のさ

はぎばかりをとふらひ給て。つれなくたちかへ

り給。心やましげなり

 (明石)おほかたにおぎの葉すぐる風の音もうきみ

ひとつにしむ心ちしてとひとりごちけり。にし

のたいにはおそろしと思ひあかし給けるなごり

 

 

14

に。ねすぐして。いまぞかゝみなどみ給ほどなり

ける。こと/\しくさきなをひそとの給へば。こと

にをともせでいり給ふ。屏風などもみなたゝみ

よせ。ものしどけなくしなしたるに。日のはな

やかにさし出たるほど。けさ/\とものきよげな

るさましてい給へり。ちかくい給て。れいの風に

つけてもおなじすぢにむつかしう聞えたはふれ

給へば。たえずうたてと思ひてかう心うかればこそ。

こよひの風にもあくかれなまほしく侍つれと

むつかり給へば。いとよく打わらひ給て風につ

きてくがれ給はんや。かろ/\しからん。さり

 

ともとまるかた有なんかし。やう/\かゝる御心

むけこそそひわたれ。ことはりやとの給へば。けに

うち思ふまゝにきこえてけるかなとおぼして

みつからもうちえみ給へるいとおかしき色あひ

つらつきなり。ほうづきなどいふめるやうにふく

らかにて。かみのかゝれるひま/\゛うつくしうおぼゆ。

まみのあたりわらゝかなるぞいとしも。しなた

かくみえざりける。そのほかは露なんつくべくも

あらず。中将いとこまやかにこえ給ふをいかで

この御かたちみてしがなと思ひわたる心にて。

すみのまのみすの几帳はそひながらしどけ

 

 

15

なきを。やすらひきあげてみるに。まぎるゝ物

どもゝとりやりたれば。いとよくみゆ。かくたはふれ

給けしきのしるきを。あやしのわさや。おやと

聞えながらかくふところはなれずものちかゝる

べき程かいとめとまりぬ。みやつれ給はんとおそ

ろしけれど。あやしきに心もおどろきてな

をみれば。はしらかくれにすこしそばみ給へり

つるをひきよせ給へるに。御くしのなみよりて

はら/\とこぼれかゝりたる程。女もいとむつかしう

くるしと思給へるけしきながら。さすがいとな

ごやかなるさましてよりかゝり給へるは。事と

 

なれ/\しきにこそあめれ。いてあなうたてい

かなることにかあらむ思ひよらぬくまなくおは

しける御心にて。もとより見なれおぼしたて

給はぬは。かゝる御思ひそひ給へるなめりむべなり

けりや。あなうとましと思ふ心もはづかし。女の

御さま。げにはらからといふ共。すこしのきてこと

はらぞかしなど思はんは。などか心あやまり

もせざらんとおぼゆ。きのふみし御けはひには

けおとりたれど。みるにえまるゝさまは。たちも

ならびぬべくみゆ。やへ山ぶきのさきみだれたる

さかりに露かゝれける夕ばへぞふと思いでらるゝ

 

 

16

おりにあはぬよそへどもなれと。なをうちおほ

ゆるやうよ。花はかぎりこそあれ。そゝれたる

しべなどもまじるかし。人の御かたちのよきは

たとへんかたなき物なりけり。御前に人もいで

こず。いとこまやかにうちさゝめきかたらひ聞え

給に。いかゞあらんまめたちてそたち給ふ。女

 (玉鬘)吹みだる風のけしきにをみなへししほれし

ぬべき心ちこそすれくはしくも聞えぬに。打

ずむし給をほのきくに。にくき物のおかし

ければ。なをみはてまほしけれど。ちかゝりけり

 

とみえ奉らじと思ひてたちさりぬ。御かへし

 (源)下露になびかましかば女郎花あらき風

にはしほれざらましなよ竹を見給へかし

などひがみゝにやありけん。きゝよくもあらず

ぞ。東の御かたへこれよりぞわたり給。けさのあ

ささむなる。うちとけわあにや。物たちなど

する。ねびごたりおまへにあまたして。ほそび

つめく物にわたひきかけてまさぐるわか人ども

もあり。いときよらなるくりばのうす物の

いまやう色のになくうちたるなどひきちらし

給へり。中将の下かさね御前のつぼせんざいの

 

 

17

えむもとまりぬらんかし。かく吹ちらしてんに

はなにごとかせられん。すさましかるべき秋

なめりなどの給ひて。なにゝかあらんさま/\゛

なる物の色どものいときよらなればかやうな

る方は南のうへにもおとらずかしとおぼす。御

なをし花文(けもん)れうを。このごろつみいだしたる

花してじゃかなくそめいで給へる。いとあらま

ほしきいろしたり。中将にこそかやうにては

きせ給はめ。わかき人のにてめやすかめりなど

やうの事をきこえ給てわたり給ぬむつかし

きかた/\゛めぐり給御ともにありきて中

 

将はなま心やましう。かゝ(書か)まほしき文なと

ひたけぬるを思ひつゝ。姫君の御かたにまいり

給へり。まだあなたにあんおはします。風に

をぢさせ給ひてけさはえおきあがり給は

ざりつるを御めのとぞ聞ゆる。物さはがしげ

なりしかば。とのいもつかうまつらんと思ふ

給へしを。宮のいと心ぐるしうおぼいたりしかば

なん。ひいなのとのはいかゞおはすらんととひ給

へば。ひと/\゛わらひてあふぎの風だにまいれば

いみじきことにおぼいたるを。ほど/\しく

こそふきみだり侍しか。この御とのあつかひに

 

 

18

わびにてはあべなどかたる。こと/\しからぬかみや

侍る。御つぼねのすゞりのふたにとり

おろしてたてまつれば。いなこれはかたはらいた

しとの給へど。北(明石上)のおとゞのおぼえを思ふに。

すこしなのめなる心ちしてかき給ふ。むらさき

のうすやうなりけり。すみ心とゞめてをしす

り。ふでのまきうち見つゝこまやかにかきやす

らひ給へるいとよし。されどあやしくさだま

りてにくきくちつきこそものし給へ

 (夕霧)風さはぎむらくもまよふゆふべにもわす

 

るゝまなくわすられぬきみ吹みだりたる。かる

かやにつけ給へれば。人々かたのゝ少々は。かみ(紙)の

いろにこそとゝのへ侍けれと聞ゆ。さばかりのいろ

も思ひわかざりけりや。いつころの野べのほとりの

花よなど。かやうの人々にもことずくなに見

えて。心とくべうももてなさず。いとすく/\しう

けたかし。又もかい給てむまのすけに給へれば。

おかしきわらは又いとなれたる御ずいじんな

どにうちさゝめきてとらするを。わかき人々

たゞならずゆかしがる。わたらせ給とて人々う

ちそよめき。几帳引なをしなどす。みつる花

 

 

19

のかほどもゝ思ひくらべまほしうて。れいはもの

ゆかしからぬ爰とにあながちにつまとのみすを

ひきゝて。几帳のほころびよりみれば。ものゝそば

よりたゞはひわたり給ふほどぞふとうち見

えたる。人のしげくまがへは何のあやめもみえ

ぬ程に。いと心もとなし。うす色の御ぞにかみの

まだたけにははづれたる。すえのひきひろげ

たるやうにて。いとほそくちいさきやうだい。らう

たげに心ぐるし。おとゝしばあkりは玉さかに。ほの

みたまつりしに。またこよなくおひまさ

り給ふなめりかし。ましてさかりいかならんかし

 

と思。かのみつるさき/\゛の桜山ぶきといはゞ。是

はふぢの花とやいふべからん。こたかき木より

さきかゝりて。風になびきたる匂ひはかくぞ

有かしと思ひよそへらる。かゝる人々を心にま

かせて。明暮見奉らばや。さもありぬべきほど

ながら。へだて/\のけざやかなるこそつらけれ

など思ふに。まめ心もなまあくがるゝ心ちす。

おば宮の御もとにも参り給へれば。のどやか

にて御おこなひし給。よろしきわか人など

こゝにもさふらへど。もてなしけはひさうぞく

どもゝ。さかりなるあたりには似るべくもあらず

 

 

20

かたちよきあま気味たちの。すみぞめにやつれ

たるぞ。中々かゝるところにつけてはさるかた

にてあはれなりける。内のおとゞもまいり給へ

る。おほとなぶら(御殿油)などまいりてのどやかに御

ものがたりなど聞え給。ひめぎみをひさしく

みあってまつらぬがあさましきことゝてたゞな

きになき給ふ。今このごろのほどにまいらせん

心づからものおもはしげにて。くちおしうおと

ろへにてなん侍める。をんなごゝそよくいはば

もちはべるまじきものなりけれとあるにつけて

も心のみなんつくさせ侍りけるなどなを心

 

とけずおもひをきたるけしきしての給へば

心うくてせち(切)にも聞え給はず。其ついでに

いとふてう(不調)なるむすめまうけ侍て。もてわづ

らひはべぬとうれへ聞え給てわらひ給。みや。いで

あなあやし。むすめといふ名はして。さがながる

やうやあるとのたまへば。それなんみぐるしき

ことに侍る。いかで御覧ぜさせんと聞え給ふとや

 

 

 

 

 

 


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