読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/pid/2567586
1
野分
2
中宮のおまへに秋の花をうへさせ給へる事
つねのとしよりもみどころおほくいろくさ
をつくしてよしあるくろきあかきのませ
をゆひまぜつゝおなじき花の枝ざしす
がたあきゆふ露のひかりもよのつねならず
玉かとかゝやきて御つくりわたせる野べの色
をみるに。はた春のやあMもわすられてすゞしう
おもしろく心もあくがるゝやうなり。はる秋の
あらそひにむかしよりあきに心をよする
人はかずまさりけるを。名だゝる春のおまへ
の花ぞのにこゝろよせし人々又ひきかへし
3
うつろふけしき世の有さまににたり。これを御
覧じつきてさとい(里居)し給ほどに。御あそびなど
もあらまほしけれど。は月は故前坊の御忌月
なれば心もとなくおぼしつゝあけくるゝに。この
花いろまさるけしきどもを御らんずるに。野
分れいの年よりもおどろ/\しく空の色
かはりてふきいづ。はなどものしほるゝをいと
さしもおもひしまぬひとだにあなわりなと
思ひさはがるゝを。まして草むらの露の玉のを
みだるゝまゝに御心まどひもしぬべくおぼし
たり。おほふばかりの袖はあきの空にしも
こそほしげなりけれ。暮行まゝにものもみえず
ふきまよはして。いとむくつけゝれば御かうし
など参りぬるに。うしろめたくいみじと花
のうへをおぼしなげく。みなみのおとゞにもせん
ざいつくろはせ給ひける折にしもかくふき
出て。もとあらのこ蘒(萩)、はしたなくまちえ
たる風のけしきなり。おれかへひ露もとまる
まじく吹ちらすを。すこしはしちかくて見
給。おとゞは姫君の御かたにおはしますほどに。
中将の君まいり給ふてひんがしのわたどのゝ
こさうじ(小障子)のかみよりつまどのあきたるひま
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をなに心もなく見いれ給へるに。女房のあま
たみゆればたちとまりてをともせでみる。
御屏風もかぜのいたくふきければをしたゝみ
よせたるに。見とをしあらはなる。ひさしのお
ましにい給へる人。ものにまぎるべくもあらず
けたかくきよらに。さと匂ふこゝちして。はる
の明ぼのゝかすみのまよりおもしろきかば
ざくらのさきみだれたるをみる心ちす。あぢき
なくみたてまつるわがかほにもうつりくるやう
に。あい行は匂ひたり。又なくめづらしき人の
御さま也みすふきあげけるを人々をさへ
て。いかにしたるにかあらん。うちわらひ給へるいと
いみじうみゆ。はなどもを心ぐるしがりてえ見
すてゝいり給はず。おまへなる人々もさま/\゛に
物きよげなるすがたどもは見わたさるれどめ
うつるべくもあらず。おとゞのいとけどをくはる
かにもてなし給へるは。みる人たゞにはえ思ふ
まじき御ありさまをいたり深き御心にて
もしかゝる事もやとおぼすなりけりと思ふ
にけはひおそろしうてたちさるにぞ。西の
御かたよりうちのみざうしひきあけてわた
り給ふ。いとうたてあはたゝしき風なめり
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みかうしおろしてよをのこどもあるらんを。
あらはにもこそあれと聞え給を。またより
て見れば物聞えておとゞもほゝえみてみ奉り
給。おやともおぼえずわかくきよげになま
めきていみじき御かたちのさかりなり。女も
ねびとゝのひあかぬ事なき御さま共なるを
みるに身にしむばかりおぼゆれど。このわた殿
のひんがしのかうしも吹はなちてたてる
所もあらはになればおそろしうてたちのきぬ。
今まいれるやうに打こはづくりて。すのこのかた
にあゆみいで給へれば。さればよあらはなりつらん
とてこのつまどのあきたりけるよといまぞ
見とがめ給。とし頃かゝることの露なかりつるを。
風こそげに岩ほをもふきあげるべきものなり
けれ。さばかりの御心どもをさはかしてめづらしく
うれしきめをみつるかなとおぼゆ。人々参りて
いといかめしうふきぬべき風にははべり。うしと
らのかたより吹侍れば。このおまへはのとげき
なり。むまばのおとゞ。みなみのつりどのなどは
あやうげになんとてとかく事おこなひのゝしる。
中将はいづこより物しつるぞと。三条の宮に侍り
つるを風いたくふきぬべしと人々の申つれば
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おぼつかなさになん参りて侍りつる。かしこには
まして心ぼそくkぜのおとをも今はかへりて
わかきこのやうにをぢ給めれば。心ぐるしさに
まかではべりなんと申し給へば。げにはやまうで
給ねおいもていきてまたわかうなること世に
あるまじきことなれとげにさのみこそあなれ
とあはれがり聞え給て。かくさはがしげに侍
めるを。このあそんさふらへばと思ひ給へゆづり
てなんと御せうそこ聞え給。みちすがらいり
もみする風なれどうるはしく物し給君にて
三条の宮と六条院とに参りて御らんぜ
られ給はぬ日なし。内の御物いみなどにえさら
ずこもり給ふべき日よりほかは。いそがすぃきおほ
やけごと。せち会などのいとまいるべく。ことしげ
きにあはせても。まづ此院に参り。宮(三条)よりぞ
いで給ひければ。ましてけふかゝる空のけしきに
より。かぜのさきにあくがれありき給もあはれ
にみゆ。宮いとうれしうたのもしとまちうけ
給て。こゝらのよはひにまたかくさはがしき
野分にこそあはざりつれと。たゞわなゝきに
わなゝき給。おほきなる木の枝などのおるゝ
をともいとうたてありやおとゞのかはらさへのこる
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まじく吹ちらすに。かくて物し給へることゝかつ
はの給ふ。そこら所せかり(狭かり)し御いきほひのしづ
まりてこの君をたのもし人におぼしたるつね
なき世なり。いまもおほかたのおぼえのう
すらぎ給事はなけれど。内のおほいとのゝ御け
はひはなか/\すこしうとくぞありける。中将
よもすがらあらき風のをとにも。すゞろに物
あはれに心にかけて恋しとおもふ人の御こと
はさしをかれて。有つる御おもがけのわすれ
ぬをこはいかにおぼゆる心ぞあるまじき思ひ
もこそそへ。いとおそろしきことゝみづから思ひ
まぎらはし。こと事に思ひうつれどなをふと
おぼえつゝきしかた行すえ有がたうも物し
給けるかな。かゝる御なからひにいかてひんがしの御
方さる物のかずにて立ならび給へらんたとしへ
なかりけりや。あないとおしとおぼゆ。おとゞの御
心ばへをありがたしと思ひしり給ふ。ひとから
のいとまめやかなれば。にげるさを思ひよらねど。
さやうならん人をこそおなじくはみてあかし
くらさめ。かぎりあらん命の程もいますこし
はかならずのびなんかしと思ひつゞけらる。
暁がたに風すこししめりてむら雨のやうに
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ふりいづ。六条院にははなれたるやどもたふれた
りなど人々申す。風の吹まよふほどひろく
そこらたかき心ちする院に人々はたおはし
ます。おとゞのあたりにこそしげゝれ。ひんがしの
まちなどは人ずくなにおぼされつらんとおど
ろき給て。まだほの/\゛とするに参り給みち
の程。よこさま雨いとひやゝかにづりいる。そらの
けしきもすごきに。あやしくあくがれたる心
ちしてなに事ぞや。又わが心に思ひくはゝれる
よと思ひいづればいとにげなき事なりけり。
あな物ぐるをしと。と様かうさまに思ひつゝ東の
御かたにまづまうで給へれば。をぢこうじておはし
けるに。とかく聞えなぐさめて。人めして所々つ
くろはすべきよしなどいひをきて。みなみのおとゝ
にまいり給へれば。まだみかうしもまいらずお
はしますに。あたれるかうらんにをしかゝりて
みわたせば。山の木どもゝふきなびかして。枝
どもおほくおれふしたり。草むらはさらにも
いはず。ひはだかはらところ/\゛のたてじとみ。す
いがいなどやうの物みだりがはし。日のわづかに
さし出たるに。うれへがほなる庭の露さら/\と
してそらはいとすごく。きりわたれるに。そこ
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はかとなくなみだのおつるを。をしのごひかく
してうちしはぶき給へれば。中将のこはづくり
にぞあなる。夜はまだふかゝらんはとておき給ふ
なり。なにごとにかあらん聞え給こえはせで。お
とゞうちわらひ給ふて。いにしへだにしらせたて
まつらず成にしあかつきのわかれよ。今ならひ給
はんに心ぐるしからんとて。とはかりかたらひ聞え
給けはひどもいとおかし。女の御いらへはきこえ
ねどほの/\゛かやうに聞えたはふれ給ことおn
はのおもむきにゆるひなき御なからひかなとき
きい給へり。見かうしを御てつからひきあけ
給へば。けぢかきかたはらいたさにたちのきてさ
ふらひ給。いかにぞよべ宮はまちよろこび給きや。
しか。はかなきことにつけても涙もろにものし
給へばいとふびんにこそ侍れと申給へば。わらひ
給て今いくばくもおはせじまめやかにつかうま
つりみえ奉れ。内のおとゞはこまやかにしも有
まじうこそうれへ給しが。ひとがらあやしうは
なやかにおゝしき方によりて。おやなどの御
けうをもいかめしきさまをばたてゝ。人にも見
おどろかさんの心あり。まことにしみてふかき
所はなき人になん物せられける。さるは心のくま
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おほくいとかしこき人の。すえの世にあまる
までさい(才)たぐひなくうるさながら人として
かくなんなき事はかたかりけるなどの給。いと
おどろ/\しかりつる風に。中宮のはか/\゛しき
宮づかさなどさふらひつらんやとて。此君して
御せうそこ聞え給。よるのかぜのをとをばいかゞ
きこしめしつらん。吹みだり侍しにをこりあ
ひ侍て。いとたへがたきみためらひ侍る程になん
とて聞え給。中将おりてなかのらうの戸
より。とをりてまいり給。朝ほらけのかたち
いとめでたくおかしげなり。東のたいの南のそば
にたちて。たまへのかたをみやり給へば。御かうしふ
たまばかりあげて。ほのかなるあさぼらけの程
に。みすまきあけて人々いたり。かうらんに
をしかゝりつゝ。わかやかなるかぎりあまたみゆ。
うちとけたるはいかゞあらん。さやかならぬ明くれ
のほど。色々なるすがたはいづれ共なくおかし
わらはべおろさせ給てむしのこどもに露かはせ
給なりけり。しをんなでしここきうすき
あこめどもにをみなへしかざみなどやうの。と
きにあひたるさまにて。四五人ばかりつれてこゝ
かしこの草むらによりて。いろ/\のこどもを
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もてさまよひ。なでしこなどのいとあはれげ
なるえだともとりもてまいる。きりのまよひ
はいとえむにぞみえける。吹くるをひ風はしを
にこと/\゛に匂ふらん。かうのかほりもふれはひ
給へる御けはひにやといと思ひやりめでたく。
心けさうせられてたちいでにくけれど。師のみ
やかにうちをとなひてあゆみいで給へるに。
人々けざやかにおどろきがほにはあらねど。みな
すべりいりぬ。御参りの程などわらはなりしに。
入たちなれ給へる。女房などもいとけうとくは
あらず。御せうそこけいせさせ給ひて。宰相の
君内侍などけはひすれば。わたくしごともし
のびやかにかたらひ給ふ。これはたさいへどけたかく
すみたるけはひのありさまをみるにもさま/\
にもの思出らる。南のおとゞにみかうし参り
わたして。よべみすてがたかりし花どものゆくえ
もしらぬやうにて。しほれふしたるをみ給けり。
中将みはしにい給て御かへり聞え給ふ。あら
き風をもふせがせ給ふべくやと。わか/\しく心
ぼそくおぼえ侍るを。いまなんなくさめはべりぬ
ると聞え給へれば。あやしくあえかにおはす
るみやなり。女どちはものおそろしくおぼし
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ぬべかりつる夜のさまなれば。けにをえおかなりと
もおぼいてんとて。やがてまいり給ふ。御なをし
などたてまつるとて。みすひきあけていり
給に。みじかき御几丁ひきよせてはつかに見
ゆる御袖ぐちはさにこそはあらめと思ふに。むね
つぶ/\となる心ちするもうたてあれば。ほか
さまに見やりつ。殿御かゞみなど見給て。しの
びて中将のあさけのすがたはきよげなりな
たゝ今はきびはなるべきほどを。かたくなし
からずとみゆるも心のやみにいやとてわか御かほ
はふりがたくよしとみ給ふべかめり。いといたう心
げさうし給て宮にみえたてまつるははづかしう
こそあれ。何ばかりあらはなるゆへ/\しさも
みえ給はぬ人の。おくゆかしう心つかひせられ給
ぞかし。いとおほどかにをんなしき物から。けし
きづきてぞおはするやとていで給に。中将なかめ
いりてとみにもおどろくましきけしきに
てい給へるを。心とき人の御めにはいかゞみ給けん
たちかへり女君にきのふ風のまぎれに中将は
み奉りやしてけん。かのあきたりしに
よとの給へばおもてうちあかみていかでか。さは
あらんわたどのゝかたには人のをともせざりし
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ものをと聞え給。なをあやしとひとりご
ちてわたり給ぬ。みすのうちに入給ぬれば。中
将わたどのゝとぐちに人々のけはひするに
よりてものなどいひたはふるれど。思ふ事のすぢ/\
まけかしうて。れいよりもしめりてい給へり。
こなたよりやがて北にとをりてあかしの御かた
をみやり給へば。はか/\゛しきげいじだつ人な
どもみえず。なれたるしもづかへよぞ。草のなか
にまじりてあり/\わらはべなどおかしき
あこめすがたうちとけて。心とゞめとりわきうへ
給ふりんだう。あさかほのはひまじれるませも。
みなちりみだれたるを。とかくひきいでたづぬる
なるべし。ものゝあはれにおぼえけるまゝに。さう
のことをかきまさぐりつゝ。はしちかくい給へる
に。御さきをふ越えのしければ。うちとけなへばめ
るすはたに。こうちき引おとしてけぢめみせ
たるいといたし。はしのかたについい給て。風のさ
はぎばかりをとふらひ給て。つれなくたちかへ
り給。心やましげなり
(明石)おほかたにおぎの葉すぐる風の音もうきみ
ひとつにしむ心ちしてとひとりごちけり。にし
のたいにはおそろしと思ひあかし給けるなごり
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に。ねすぐして。いまぞかゝみなどみ給ほどなり
ける。こと/\しくさきなをひそとの給へば。こと
にをともせでいり給ふ。屏風などもみなたゝみ
よせ。ものしどけなくしなしたるに。日のはな
やかにさし出たるほど。けさ/\とものきよげな
るさましてい給へり。ちかくい給て。れいの風に
つけてもおなじすぢにむつかしう聞えたはふれ
給へば。たえずうたてと思ひてかう心うかればこそ。
こよひの風にもあくかれなまほしく侍つれと
むつかり給へば。いとよく打わらひ給て風につ
きてくがれ給はんや。かろ/\しからん。さり
ともとまるかた有なんかし。やう/\かゝる御心
むけこそそひわたれ。ことはりやとの給へば。けに
うち思ふまゝにきこえてけるかなとおぼして
みつからもうちえみ給へるいとおかしき色あひ
つらつきなり。ほうづきなどいふめるやうにふく
らかにて。かみのかゝれるひま/\゛うつくしうおぼゆ。
まみのあたりわらゝかなるぞいとしも。しなた
かくみえざりける。そのほかは露なんつくべくも
あらず。中将いとこまやかにこえ給ふをいかで
この御かたちみてしがなと思ひわたる心にて。
すみのまのみすの几帳はそひながらしどけ
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なきを。やすらひきあげてみるに。まぎるゝ物
どもゝとりやりたれば。いとよくみゆ。かくたはふれ
給けしきのしるきを。あやしのわさや。おやと
聞えながらかくふところはなれずものちかゝる
べき程かいとめとまりぬ。みやつれ給はんとおそ
ろしけれど。あやしきに心もおどろきてな
をみれば。はしらかくれにすこしそばみ給へり
つるをひきよせ給へるに。御くしのなみよりて
はら/\とこぼれかゝりたる程。女もいとむつかしう
くるしと思給へるけしきながら。さすがいとな
ごやかなるさましてよりかゝり給へるは。事と
なれ/\しきにこそあめれ。いてあなうたてい
かなることにかあらむ思ひよらぬくまなくおは
しける御心にて。もとより見なれおぼしたて
給はぬは。かゝる御思ひそひ給へるなめりむべなり
けりや。あなうとましと思ふ心もはづかし。女の
御さま。げにはらからといふ共。すこしのきてこと
はらぞかしなど思はんは。などか心あやまり
もせざらんとおぼゆ。きのふみし御けはひには
けおとりたれど。みるにえまるゝさまは。たちも
ならびぬべくみゆ。やへ山ぶきのさきみだれたる
さかりに露かゝれける夕ばへぞふと思いでらるゝ
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おりにあはぬよそへどもなれと。なをうちおほ
ゆるやうよ。花はかぎりこそあれ。そゝれたる
しべなどもまじるかし。人の御かたちのよきは
たとへんかたなき物なりけり。御前に人もいで
こず。いとこまやかにうちさゝめきかたらひ聞え
給に。いかゞあらんまめたちてそたち給ふ。女
君
(玉鬘)吹みだる風のけしきにをみなへししほれし
ぬべき心ちこそすれくはしくも聞えぬに。打
ずむし給をほのきくに。にくき物のおかし
ければ。なをみはてまほしけれど。ちかゝりけり
とみえ奉らじと思ひてたちさりぬ。御かへし
(源)下露になびかましかば女郎花あらき風
にはしほれざらましなよ竹を見給へかし
などひがみゝにやありけん。きゝよくもあらず
ぞ。東の御かたへこれよりぞわたり給。けさのあ
ささむなる。うちとけわあにや。物たちなど
する。ねびごたりおまへにあまたして。ほそび
つめく物にわたひきかけてまさぐるわか人ども
もあり。いときよらなるくりばのうす物の
いまやう色のになくうちたるなどひきちらし
給へり。中将の下かさね御前のつぼせんざいの
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えむもとまりぬらんかし。かく吹ちらしてんに
はなにごとかせられん。すさましかるべき秋
なめりなどの給ひて。なにゝかあらんさま/\゛
なる物の色どものいときよらなればかやうな
る方は南のうへにもおとらずかしとおぼす。御
なをし花文(けもん)れうを。このごろつみいだしたる
花してじゃかなくそめいで給へる。いとあらま
ほしきいろしたり。中将にこそかやうにては
きせ給はめ。わかき人のにてめやすかめりなど
やうの事をきこえ給てわたり給ぬむつかし
きかた/\゛めぐり給御ともにありきて中
将はなま心やましう。かゝ(書か)まほしき文なと
ひたけぬるを思ひつゝ。姫君の御かたにまいり
給へり。まだあなたにあんおはします。風に
をぢさせ給ひてけさはえおきあがり給は
ざりつるを御めのとぞ聞ゆる。物さはがしげ
なりしかば。とのいもつかうまつらんと思ふ
給へしを。宮のいと心ぐるしうおぼいたりしかば
なん。ひいなのとのはいかゞおはすらんととひ給
へば。ひと/\゛わらひてあふぎの風だにまいれば
いみじきことにおぼいたるを。ほど/\しく
こそふきみだり侍しか。この御とのあつかひに
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わびにてはあべなどかたる。こと/\しからぬかみや
侍る。御つぼねのすゞりのふたにとり
おろしてたてまつれば。いなこれはかたはらいた
しとの給へど。北(明石上)のおとゞのおぼえを思ふに。
すこしなのめなる心ちしてかき給ふ。むらさき
のうすやうなりけり。すみ心とゞめてをしす
り。ふでのまきうち見つゝこまやかにかきやす
らひ給へるいとよし。されどあやしくさだま
りてにくきくちつきこそものし給へ
(夕霧)風さはぎむらくもまよふゆふべにもわす
るゝまなくわすられぬきみ吹みだりたる。かる
かやにつけ給へれば。人々かたのゝ少々は。かみ(紙)の
いろにこそとゝのへ侍けれと聞ゆ。さばかりのいろ
も思ひわかざりけりや。いつころの野べのほとりの
花よなど。かやうの人々にもことずくなに見
えて。心とくべうももてなさず。いとすく/\しう
けたかし。又もかい給てむまのすけに給へれば。
おかしきわらは又いとなれたる御ずいじんな
どにうちさゝめきてとらするを。わかき人々
たゞならずゆかしがる。わたらせ給とて人々う
ちそよめき。几帳引なをしなどす。みつる花
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のかほどもゝ思ひくらべまほしうて。れいはもの
ゆかしからぬ爰とにあながちにつまとのみすを
ひきゝて。几帳のほころびよりみれば。ものゝそば
よりたゞはひわたり給ふほどぞふとうち見
えたる。人のしげくまがへは何のあやめもみえ
ぬ程に。いと心もとなし。うす色の御ぞにかみの
まだたけにははづれたる。すえのひきひろげ
たるやうにて。いとほそくちいさきやうだい。らう
たげに心ぐるし。おとゝしばあkりは玉さかに。ほの
みたまつりしに。またこよなくおひまさ
り給ふなめりかし。ましてさかりいかならんかし
と思。かのみつるさき/\゛の桜山ぶきといはゞ。是
はふぢの花とやいふべからん。こたかき木より
さきかゝりて。風になびきたる匂ひはかくぞ
有かしと思ひよそへらる。かゝる人々を心にま
かせて。明暮見奉らばや。さもありぬべきほど
ながら。へだて/\のけざやかなるこそつらけれ
など思ふに。まめ心もなまあくがるゝ心ちす。
おば宮の御もとにも参り給へれば。のどやか
にて御おこなひし給。よろしきわか人など
こゝにもさふらへど。もてなしけはひさうぞく
どもゝ。さかりなるあたりには似るべくもあらず
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かたちよきあま気味たちの。すみぞめにやつれ
たるぞ。中々かゝるところにつけてはさるかた
にてあはれなりける。内のおとゞもまいり給へ
る。おほとなぶら(御殿油)などまいりてのどやかに御
ものがたりなど聞え給。ひめぎみをひさしく
みあってまつらぬがあさましきことゝてたゞな
きになき給ふ。今このごろのほどにまいらせん
心づからものおもはしげにて。くちおしうおと
ろへにてなん侍める。をんなごゝそよくいはば
もちはべるまじきものなりけれとあるにつけて
も心のみなんつくさせ侍りけるなどなを心
とけずおもひをきたるけしきしての給へば
心うくてせち(切)にも聞え給はず。其ついでに
いとふてう(不調)なるむすめまうけ侍て。もてわづ
らひはべぬとうれへ聞え給てわらひ給。みや。いで
あなあやし。むすめといふ名はして。さがながる
やうやあるとのたまへば。それなんみぐるしき
ことに侍る。いかで御覧ぜさせんと聞え給ふとや